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すれ違いの僕と君2

*** 「吉川さーんっ、大変です!」  昼休みをエンジョイしようとクラスメート数人で体育館に向かうべく、廊下をダラダラと歩いていた。  そんな俺を追いかけてきた、ノリトが信頼している腐女子の大隅さんが息を切らしながら走ってやって来る。  俺が立ち止まって大隅さんを見やると、クラスメートのひとりが肩をぽんと叩いてきた。 「吉川、先に行ってるぞー」  意味深にそれぞれニヤニヤしながら、急いだ足取りで去って行く。勘違いしまくりのクラスメートの姿を見送って、大隅さんに苦笑いしつつ向き直った。  せっかく肩まで伸ばしているさらさらの黒髪が、急いで走ったせいで残念なくらいにぐちゃぐちゃになっていた。淳のヤツが見たら、間違いなく手串で整えてやるんだろう。 「大隅さん珍しいな、そんなに慌てふためいてさ。一体、何があった?」  初夏の風が廊下の窓から心地よく入ってくるが、湿度の高い空気のせいで肌がジメジメして不快感が増していく。  大隅さんは手に持っていたハンカチで額の汗を拭いつつ、世紀の大発見したのよといわんばかりの驚いた表情を、ありありと浮かべた。 「ノリトさんが、すっごいイメチェンをしたんですよ。髪の毛をバッサリ切っちゃてメガネもコンタクトにして、可愛い感じがなくなったんです」  確かにそれは、大発見かもしれない。 「へえ、どういう心境の変化だろうな。俺、何も聞いてないし」  もともとノリは顔立ちが悪いワケじゃないんだから、イメチェンのひとつやふたつ、どうってことはないだろう。 「それだけじゃないんですって! 何か、こう……素っ気ないんです。冷たいって感じじゃないけど、隙がないっていうか、突っ込めないっていうか」 「それじゃあ、ますます分んねぇな。淳は何か言ってるのか?」  淳は俺と並んで校内で1・2を争うイケメンであり、野球部のポジションは剛速球を投げるピッチャー。  サッカー部の俺はノリと仲がいい淳に絡んで上手いこと接近し、目当てのノリに近づいた。そうして紆余曲折を経て、何とか恋人同士になれたのだが――。  はてな顔して首を傾げながら頭をポリポリ掻くと、大隅さんは困り果てて俯いてしまった。 「淳さんは、いつもと変わらないよーって言ってるんです。でもでも本当に、何かが違うんです。上手く伝えられなくてごめんなさい……」  心情の機微に聡いコだから、きっと何かを感じ取ったのかもしれないな。 「ノリのヤツ、どこにいるか知ってる?」 「さっき弓道部の部室に向かって行くのを見て、声をかけたんです。だから――」 「分かった。弓道部の部室に行ってみる。わざわざありがとな、大隅さん」  廊下の窓からちょうど弓道部の部室が見渡せるので、もしかしてと思いひょいと覗いてみた。タイミングよくノリがスマホを片手に、とぼとぼ歩いている姿を発見できた。 「おおーいっ! ノリ。今からそっちに行くからな!」  慌てて窓から顔を出しながら声をかけて、両手を大きくぶんぶん振ってみたら、ちらりとこちらを仰ぎ見る。  大隅さんが言ったように長めの髪をバッサリ切り落とし、メガネをかけていない顔は、ぱっと見、別人のように見えるだけじゃなく。  ――どことなく冴えた空気――  梅雨の時期で信じられないほど空気が湿気って重いのに、ノリの周りにだけ違う空気が流れているみたいだった。まとってる雰囲気が、そうさせているのだろうか?  俺の呼びかけに返答せず一瞥し、さっさと部室の方に消えてしまった。  いつもなら迷惑そうな顔をしつつも、うっすら笑いを浮かべてテレた表情を浮かべていたのに、今はそれすらもなかった。  見えない不安が怒涛のようにぶわっと押し寄せてきて、大隅さんに挨拶せずに駆け出した。 (――ノリ、お前に一体、何があったんだ?) 「吉川さん、頑張ってください……」  不安そうな表情を浮かべる大隅さんが、俺の背中にエールを送っていたことに、まったく気がつかなかった。

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