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第9話
よく唸っているけれど、アイツは犬系のなにかなのだろうか。
冗談半分本気半分でそんなことを考えながら、美味しい紅茶を飲み干す。
それからカップをテーブルに置いたあと、トレーニングで汗をかいたのでシャワーでも浴びようかと立ち上がった。
「邪魔するぞ」
邪魔をするなら帰ってくれ。
という定番のノリを知っている人がこの世界にはいないので、口には出さず、黙って声が聞こえたバルコニーの窓を振り向く。
「扉から入ってくれないか?」
「窓から入るななんて言われてないぜ」
それは確かに言ってない。寝耳に水だ。
俺が返す言葉もなく納得してしまうと、ふてぶてしい窓侵入者は天井まである大きな窓を閉め、呑気に歩いてくる。
見覚えがない男だ。
サラサラと癖のない短く整えられた銀色の髪に、アメジスト色の鋭い瞳がよく似合う。
黒い軍服のようなものに身を包んだ長身の体躯。俺もなかなか背が高いほうなのに、俺よりも頭半分は高い。
耳の後ろあたりからにょっきりと伸びているのは、銀灰色の山羊のような角。
尾てい骨あたりから美しいウロコを纏って生えたトカゲのような長い銀色の尻尾も相まって、男が魔族であるとすぐにわかった。
特に逃げることもせず近寄ってくるのを静かに待っている俺を、男は触れ合いそうな距離までぐぐっと顔を近づけて、不思議そうに眺める。
イケメンは近くで見てもイケメンだな。魔族はつくづくオトクな種族である。
「お前が魔王のとっておきのメシ? イイニオイがすんなァ。ケガしてんのか?」
「そうか? さっき噛まれたからだな。ついでに一応聞くが……お前は全裸でドラゴンの巣に行っても帰って来られるのか?」
「俺はドラゴンの上位種であるヒュドルドのさらに魔族だから、全裸で昼寝してても無傷だなァ」
なるほど。とんでも魔族だ。
俺をうっかり塵に変えられる男だとわかったので、逆らわないことにした。
自然淘汰されたくはない。
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