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第32話

 それから最初に言っていたとおりにガドの頭をなでるという望みを叶えてやりながら、会えない間にガドにあった出来事を聞かされた。  このあいだ軍魔である彼が空中を巡視した時、雲間を泳ぐ空マグロの群を見つけたのだそうだ。  空マグロというのは、その名のとおり空飛ぶマグロらしい。味はチョコレートのように甘く、ガドの好物だとか。  浮かれ調子でいくらかつまみ食いをして、機嫌良く帰って来たと楽しそうに笑われた。 「マグロチョコ……凄いな。味のギャップに慣れるまで大変そうだ」 「なに言ってんだよォ? マグロは甘いだろ?」  当たり前のように告げられたが、前世界でも人間国でもマグロは生臭い魚だった。子どもに大人気の大衆魚の王様だ。  ガドは今度狩ってきてやると奮起している。いや、マグロチョコに不満はないが、ん、ない? あるかもしれない。  そんな話を聞きながらしこたまなでてやったからか、ガドはとても機嫌がいい。  どうやら触られるのが好きみたいだ。  あまり触られることがなかったからだろうか。ガドと話すのは俺も楽しい。  でも──今日、すると決めたことがある。  俺は会いに来てくれた友人に申し訳ないが、そろそろ行かねばと立ち上がった。  服装はいつもの黒地の体にフィットするタイプのインナー。これしかないから仕方がない。私物がないので持ち物はない。シャワーも浴びてある。 「どこ行くんだよォ。まだ日は昇ったばかりだぜ? おしゃべりのあとは俺との空中散歩が済んでない」 「ごめんな、俺はちょっとアゼルと仲直りに行かないといけない。執務室への道を教えてくれるか?」 「む、まぁた死にに行くのかァ!」 「死なない! 死なない!」  ──どうしたって俺を殺したいんだなお前は!  だめ! と両腕をクロスさせ大きくバッテンを作るガドに、俺は両手でデコピンの構えを取って威嚇した。  ヒュドルドが阻んでも俺は行くぞ。  俺の迂闊であんなにしょぼくれたアゼルを一晩放っておいて誤解も解かずに仲直りもできていないとは、俺は自分が情けない。男を見せなければ。 「俺もついていく」  俺の威嚇に、これだけは譲れない様子でそう言われて、俺は願ったり叶ったり。これには喜んで頷いた。  案内をしてもらえれば、執務室には容易にたどり着けるだろう。  そうと決まれば。  俺はガドと連れ立ってはじめてのおつかい……じゃない、最初の決戦以外では初の、魔王城探索に出かけたのだった。  目標、執務室。  任務、仲直りだ!

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