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第33話

 そうして勇み、部屋を出た俺とガド。  多種族対応のバリアフリーな広い廊下を、あたりをもの珍しく眺めながらすみを歩く。  珍しいのは廊下じゃない。  パタパタと飛び交うアゼルの従魔であるコウモリもどきたちや、水でできた人型の魔族たち。更には、猛禽類の頭を持つ軍服の戦士たちのことだ。  他にも様々な魔族たちがいる。  彼らは書類を運んだり、掃除をしている者もいれば、なにもしないで雑談に花を咲かせている者や、なんとはなしに漂う者もいた。  ここに来た時は誰も見かけなかったのに、本来ならこんなにもたくさんの魔族が住んでいたようだな。 「凄いな。みんなここで仕事をしているのか?」 「いや? 下働きはだいたい眷属だな。役職を持っているのは本当に魔界で上位の、一人で人間の軍隊を潰せるエグいやつらだけだぜ。他のはそいつらの従魔とか、縄張りを持って生きていけないほど弱い種類が服従を条件に仕事して住んでるだけだ」  言葉を続けるガドによると、ある程度強い魔族は自分たちの種類だけで縄張りを持ち、各地に村を作り各々生きているらしい。  魔王城は魔界一の魔力スポットで、土地から湧き出る闇属性の魔力がとんでもない濃度だ。  なのでここに住んでいるのは、魔力に惹かれた魔族の中でも強い魔族たちと、その眷属、逆に物凄く弱い魔族だけだという。  そのため、長となって魔界のバランスを取る仕事をしているのは魔王を筆頭にした有力魔族たちだけらしい。  要はお貴族様たちだ。  他はその役職持ちの言うとおりに動く雇われ人で、普通魔族は有事の際以外各地の街や村で纏まって働いたり好きなように暮らしている。  人間のようにきちんと統治していないから、いろんなところが緩い様子だ。  なにかわかり合えない摩擦があったら、即バトル。それがまかり通るシビアで殺伐とした過激な魔界だからこそだろう。 (……ん?)  ふと、周りの魔族たちが俺をジロジロと見つめていることに気がついた。  もの珍しそうな者もいれば、機嫌の悪そうな者もいる。もちろん目もくれない者もいる。  だが彼らは決して絡んではこず、俺に歩幅を合わせながらお散歩感覚でのしのしと歩くガドに、全員が道を空けるのだ。  ……そういえば、前に窓から帰っていった時も、空を舞うガドは同じ空の生物たちに道を空けられていたな。  思い出したので、トントン、と隣の腕をつついて呼んでみる。 「ん?」 「ただの一軍魔だと思っていたが……もしかして、ガドはなにか役職があるのか?」 「あんよ~。そんなに面白いもんじゃねぇぞう。フル肩書長ぇしなァ」  なんでもないような表情でんー、と、ガドは思い出すように目線を斜め上に向けた。いやいや、なぜ自分の肩書を忘れているんだ。  ややあって、どうにか思い出したらしく、ウシシと笑って告げられた正体。 「俺は魔界軍空軍長──〝死舞魔将(しぶましょう)〟ガードヴァイン・シルヴァリウス」  ──三軍将校の一人。  思い出せてすっきりした様子のガドは、またのんびりと歩き出す。なぜか腕をつついた俺の手をそのまま掴んで引っ張りながら。  しかし今回ばかりは、おとなしく引っ張られて進む。  無邪気な子どもそのもののような窓侵入者が魔界の空軍のトップだった衝撃の事実で、俺はしばらくフリーズしていたのだった。  空軍長官。  頭をなでられるのが大好きなこのマイペース銀竜さんが、まさかそんな。世の中、破天荒な者ほど大物になるのだろう。

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