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第37話

◇ 「死ぬかと思った。」 「悪ィ悪ィ。でも普段の散歩の半分ぐらいしか速度出してねェんだぜ。」 「あれで半分なら本気を出されると俺の体は爆発四散するぞ。」 こうなると思っていた。 そらみたことか。 すっかり三半規管にダメージを受けてしまいぐったりする俺を背負いながら、ガドはえっちらおっちら歩く。 ガドの飛行でアクシオ谷の中程にはものの5分で到着した。 魔王城の裏手とはいえ広大な谷の中心部にその速度は、俺一人では到底達せない。死ぬ思いをしたかいがあった。 しかし巨大な竜では谷の切り立った複雑な岩場道を行くことはできないので、少し開けた場所に降り立って徒歩で探索することになったのだ。 ガドは俺の頼みでここに連れて行ってくれて俺が勝手に酔っているのに、負い目を感じているのかゆっくりと揺らさないように歩いている。 屈強な見た目とのほほんとしたマイペースな性格と態度でわかりにくいが、やはりガドは猪突猛進で粗暴な自分の野生を悔いているのだろう。 繊細な竜なのだ。 背負われ肩においていた手を、そっと前に伸ばして背中に胸をあてもたれかかってみる。 「うぁ、」 「ガドのおかげでこんなに早くここまでこれた、一人じゃもっと大変だった。ありがとうな。」 「んぐ…ま、お前がこうやって手土産を手に入れて謝っても、魔王が許さなかったら、俺が飼ってやんよ。」 それはありがたい。 国へ帰ってもいつか殺されるだろうし、頼れる友人は誰もいないから自然淘汰されてしまうだろうからな。 鼻歌を歌いだしたガドの背中で、俺は心遣いが嬉しくて口元を緩める。 だいぶ酔いも覚めた。 復活した俺はガドに背中からおろしてもらい、岩場を中心にキョロキョロと目を動かしながら探索にせいをだしていく。 ガドは非常にざんねんそうで、俺を下ろすのを嫌がっていたがしぶしぶ開放してくれた。 なんでだ。重いだろ。 ガドがわからないのはいつものことか。 「マルオの言っていた花は、崖肌の岩の影にあることが多いらしい。」 「聞く限り多分アーライマのことだな。花びらが8枚の、白い背の低い花だぜ。」 「わかった。」 教えてもらった情報をもとに、手をつきながら壁代わりに歩いている崖上や周囲、足元の下の崖肌をキョロキョロと慎重にさがしていく。 それらしいものは見つけられないが、底が暗くよく見えない深さの崖を覗き込むのは、もし高所恐怖症だったら気絶している行為だ。 魔法が使えない俺は落ちたらそのままエンドロールが流れるだろう。 そうやって歩く道全てをなるべく細やかに探しながら、いくつもの岩場の多い崖を探していくが、太陽が真上を指しても見つからず…傾き始めた今も、アーライマは影も形もない。
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