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第62話
続いて向かったのは空軍基地である。
城自体も巨大な魔王城の敷地は広大で、敷地内の施設は様々なものがあるのだ。
それを守るために、円形の広大な土地を殻のように特殊な岩壁で、てっぺんの抜けたドーム状に囲ってある。
この形状は手や足を引っかける取っ掛りがないので、なかなかに侵入しづらい。俺も入るのに苦労したな。
守られる数多の施設の中には、当然軍事基地もある。
個々が一騎当千の軍魔たちは数こそ人間国ほどはいないが、それなりの規模の軍があり、宿舎や訓練場も各軍が保持している。
なんだか知らず魔王城にどんどん詳しくなっていくが、これも人間嫌いの魔族たちにスパイだなんだと揶揄 される理由なのだろうか。
うーんと悩ましく思っているうちに、目的の空軍基地に到着した。
基地の上空では十数匹の大小姿形様々な竜が綺麗に隊列を組み、くるくると旋回している。どうやら訓練中らしい。
サクサクと芝生を踏み鳴らし近づくと、空の訓練を他の竜人隊員たちと地面から眺めている、お馴染みの銀竜さんを見つけた。
「おーいガド、俺だ。シャルだ。訓練の邪魔をしてすまないな」
のんびりとした声で話の邪魔を謝り、いそいそと歩み寄る。
実は昨日、暇を見ては遊びにやってくるガドがお菓子に興味を示していてな。
明日はクッキーを焼くと言うと、嬉々として予約をしてきたのだ。
チョコレート味のマグロ、空マグロをおやつにしているだけあって、ガドは甘いものが好きらしい。嬉しいことだ。
「お疲れ様。配達の時間だぞ」
「ン? おっ!」
ニコニコと呼びかける俺の声に、ガドがバッと振り向き声を上げた。
その途端、ニマーッと花が咲き誇るような笑顔を見せたかと思うと。
「シャァルぅぅ~! 待っていたぜ、あぁ、待っていたぜ。クッキーはどこだァ?」
「うぐっ、ぐぇ、うごご」
風のように速く近づき、俺の脇に手を入れてヒョイと抱き上げた勢いのままグルングルン! と振り回し始めたのだ。
──う、うおぉぉぉ……ッ! 俺はこれでも背は高いほうだしそこそこ筋肉もあって重いはずなのに、こんなに軽々と回されるなんてッ!
全く動きが予想できなかった。
くそう、ガドは嬉しいとグルグル回る癖があるのか……!
毎日鍛えているのにフィジカルお化けに敵わず、俺はガーンと男として情けないショックを受ける。
「クックック、シャァルゥ~」
「うう、うぅ」
思う存分振り回したガドは、前よりすぐに降ろしてはくれた。
うぅん、少しくらくらする。地面が揺れるぞ。俺はせめてもの抵抗として、ガドの屈強な腹筋をポスポスと弱々しく殴る。
「お、おいアイツ、ガド長官を攻撃してるぞ……!」
「あれは人間か? ってことは勇者だな。勇者は危険だから乗り込んできたら玉座の間に通す手筈だろ?」
「それがもうとっくに二ヶ月前くらいに瞬殺されたとかで、今は慈悲深い魔王様が食料として飼ってるらしいよ」
「なに? じゃあその魔王様の家畜が、なんでガド長官と戦ってるんだ?」
「わからない。とりあえず助太刀するぜ!」
「「「おう!」」」
渾身の〝またグロッキーになったらどうしてくれるんだパンチ〟をひょいひょいと避け始めたガドに抵抗するべく、しばしパンチを連打する俺。
すると突然俺を囲むように、上方から謎の影が差した。
──ズガァンッ!
「ッ!?」
反射的に避けると、刹那、轟音と共に俺のいたところへ大きな爪痕が三つ深々と刻まれる。な、なんだ?
「おっと避けたぞ、やるな勇者」
「だがしかし! 我らのリーダー、ガド長官を攻撃することは万死に値する!」
「よって処刑ッウグア────ッ!」
地面に亀裂のような爪痕を刻んだのは、先ほどガドと一緒に訓練を見ていた竜人たちのうちの三人だった。
バッファドンを解体していた時のガドのように腕だけを竜化させていた彼らだが、疑問を抱くより先に展開が一転。
俺が状況をなんとか把握した時にはすでに彼らのうちの一人が横薙ぎにぶっ飛んで、近くの大木の幹にドゴォォォォンッ! とめり込んでいた。
「ギャァァアッ!」
「アリオーッ!?」
「アリオがめり込んだーッ!」
アリオ、と呼ばれた赤色の尻尾にガドより小さくて細めの角を伸ばした竜人を、残りの二人が慌てて駆け出し回収へ向かう。
(……なんなんだ?)
ごく一般的な人間である俺には、なにが起こっているのかさっぱり理解できない。
とりあえず彼らがガドを攻撃している俺を止めるために飛びかかったということは、口走っていた内容でどうにか把握した。
しかしそれでどうして襲ってきた側が吹っ飛んでいるのか。
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