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第65話

 そんなニコニコの俺を、三人の竜人は頬にクッキーを詰め込んだまま、興味深そうにじっと見つめた。  ん? なんだろう。顔に変なものでもついているのだろうか。  急に熱心に見つめられ、首を傾げる。  クッキーを飲み込んだアリオが、自分の頬をむにむにと揉みながら軽く頷いた。 「初め勇者が攻めてきた時の噂では、無表情の鉄仮面なロボ勇者って話だったんだぜ? ずーっと黙々と魔王城の敷地の囲いをよじ登ってきたり、玉座にたどり着くまでに迷子になっても、黙ってずーっとうろうろしてたって」 「誰だそれは」 「お前だよ!」  アリオの言葉に更に首を傾げた俺に、アリオの言葉に同意しているのか、オルガがスパコン! と俺の頭を叩こうとした。  だがその腕をガドにデコピンされて「ァウチッ!」と悲鳴をあげる。  同じデコピンなのに俺のデコピンとは威力が違う。やはり気の毒だ。  ちなみにガドはモグモグと口いっぱいにクッキーを頬張って、それこそハムスターのように頬袋がパンパンだった。  うぅん、これはもうハムスターの座は彼に譲るしかない。仕方ないが譲るしかない!  称号を返還することができた俺は、ハムスター化するガドの頭をよしよしとなでる。  信号機竜人たちは目玉をひん剥いて二度見していた。そうか。自分の上司の頬袋があぁも膨らむとは思わなかったんだな。 「ガドは意外とモチモチしているぞ」 「いやいや。長官に人間が触ってるとんでもない状況にポカンな俺たちだけど、俺わかったぜ」 「俺もわかったぜ」 「もちろん俺もだぜ」 「うん?」 「「「コイツ天然だ!」」」 「いや、俺は天然じゃないが……天然というのは悪いことだと聞いた。直すから、どこらへんがそうなのか教えてほしい」 「モゴモゴ、んぐ。シャル、そういうとこだぜ~」  どういうところだろう。  四人にまとめて指摘され、俺は心持ちしゅんと肩を丸めた。  知っているぞ。人に天然と言う時は、馬鹿だという意味だろう? そういうところはちゃんと直したいのに、詳しいことはよくわからない。申し訳ない。  考え込んでいると、ガドが「まぁしょげんなよ~それがお前のイイトコだぜ」と慰めてくれた。優しいな。  けれどどうして俺の手を掴んで動かし、自分の頭をなでさせているんだ?  慰めなら俺をなでるほうが適切だと思うが、ガドをなでて癒されていろということだろうか。なでるけどな。少し癒される。 「元ロボシャル、やっぱなでるのうめェ~」 「ロボだった覚えはないが……俺としてはちゃんとニコニコしているぞ」 「クク、顔にあんまし出ねぇのよ」  この世界でロボというと、魔導具(まどうぐ)のことだ。  科学的なものではないがカラクリ的なものなので、概ね現代と同じ意味である。  つまり鉄仮面扱いされたわけだが……俺は楽しければ笑っているはずだし、悲しければこうしてしょげているのに。  確かに魔王城の壁をよじ登っていたのも、迷子になっていたのも、俺だ。  しかし俺は無表情じゃない。割と表情豊かだ。ノーマルな顔が若干眠たげで、真顔寄りなだけである。 「表情か」  そういえば──そうだ。  魔王城に来てからは、笑うことが多くなったかもしれない、かな。

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