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第66話

「俺たち魔族は弱い人間たちを、人間目線で言うとそのへんの野良猫感覚で見てる。けど猫でもさ? やせっぽちが一人でとぼとぼ歩いてるのよりは、ニャアニャア愉快な猫のほうがいいと思うぜ」  そう言ったアリオは照れ臭そうに唇を尖らせ、ふいっと顔をそらした。その口元にはクッキーの食べカスが付着している。  どうやらこの三人の竜人たちは人間を嫌悪している魔族ではないようで、アリオは友好的な反応を返してくれたようだ。  これには曰く鉄仮面であった俺も、ニマニマが止まらない。  心の中では万歳三唱。  ハムスターの座をガドにプレゼントしたからか、猫にランクアップしたからな。勇者さんイメージアップ作戦は大成功だ。 「ありがとうな」 「んぐ、おうよ。竜は気のいいやつらばかりだ、空軍はお菓子をくれるお前を歓迎するぜ! ですよね、ガド長官!」 「モグモグ、ん、当たり前だ。俺のお気に入りだからなァ。だけどアリオ、テメェお菓子は金を払わねーと貰えねぇんだぜ?」 「「「な、なんだってーッ!?」」」  礼を言ってアリオの頬の食べカスを取ってやると、アリオは意気揚々と歓迎してくれる。けれどすぐにガドの言葉を聞き、ガーン! とショックを受けてしまった。  ユニゾンして声を上げた三人衆だったので、話を聞いていた二人も今後もお菓子を貰おうとしていたようだ。  そう思ってもらえるとすごく嬉しいが、俺も仕事だからな……ちょっと申し訳なくなる。 「うぐぐ……じゃあ俺はこの残りをティータイムに取っておくぜ……!」 「ううう……俺もとっておく……!」 「オルガ、キリユ……! そうだな、俺も残しておくぜ……!」  信号機トリオはお互いに慰め合いながら、泣く泣く残りのクッキーを召喚魔法の魔法域へとしまっていった。  いつも思うが、召喚魔法は便利だな。  俺も覚えてみたい。  召喚魔法は魔族の魔法なので、人間は使い方がわからないのだ。一人で魔界を目指して旅をしていた時は、見た目より収納できる魔法のポーチを持っていた。  今は剣と一緒に没収されているので、出歩けるようになると少し不便である。  じーっと羨ましく見つめていると、それに気づいた青色竜人、オルガが首を傾げた。 「どうした? やっぱり返してほしいのか? だめだぜ、これはあとで大事に食うんだ」 「いや、構わないしなんなら明日は違うお菓子を売る予定だから、よかったら買ってもらえると嬉しい。召喚魔法が便利でいいなあと思っていたんだ」 「ち、違うのも作れるのか! よし、それを予約するぜ。ついでに召喚魔法を教えてやる」  オルガは嬉しそうに尻尾を揺らしながら、俺の背中をバシバシと叩く。  痛い。強化人間なステータスを持つ俺でなければ背骨にヒビが入ってそうだ。  ちなみに明日はパウンドケーキだぞ、と言うと、パウンドケーキは知らなかったのか首を傾げられた。  甘くてふわふわした焼き菓子だと説明すると、またよだれを垂らしている。やっぱり竜人は甘いものが好きなのか。かわいいな。

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