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第112話
ううむ、そうか……アゼルは触られたいわけじゃなかったのか。わかったぞ。
「アゼルは胸を触るほうが好きなんだな。俺のでよければ、……さ、触ってくれ」
「なんで俺が胸大好きみてぇになってんだよッ。胸から離れろ! 照れるから後ろから抱きつくように揉んでいいか? ……ぅあ? なんか違う気が……」
やはりか。ピタリだった。
なるべく自然に聞こえるように提案してみると、真剣な顔で揉んでいいか? と言われた。
かまわない。正直全くおっぱいはないが好きに触ってほしい。
俺は自分の予想が的中したことに胸中でファンファーレを鳴らす。選択肢のミスはバッドエンドを招くからな。
こうして距離を詰めていき雰囲気作りを頑張ればここぞというタイミングで告白できるだろう。男なら行動で示すのが男気だ。
「よし、いいぞ」
ウェルカムムードムンムンでコクリと頷く。ボディタッチをするはずが、されることになってしまったな。
これじゃあ駆け引きベタの俺が恋心を隠しきれず、脈アリ判定されるかもしれないけれど、アゼルの願いは叶えてやりたい。
俺がアゼルから手を離し無防備に座って待つと、アゼルはしまった! とでも言わんばかりの顔をしてガバッ! と飛び起きた。
どうした。……やっぱり俺ではだめか。
「胸筋じゃだめか……?」
「! だ、ダメじゃねぇっ」
自分の柔らかさの欠片もないペタンとした胸元を思い出し、一瞬落ち込みそうになる。
ショボリとしながら伺い気味に視線をやると、数秒逡巡したアゼルが慌てて手を伸ばし、そーっと俺の手を引いた。
手のひらとはいえ素肌が触れ合うとドキ、と鼓動が早まり、それと仄かな嬉しさが指先に宿る。
彼に移ってしまわないか、心配になってしまう。
そのまま背を向けて足を開いて座るアゼルの胸に背中を預ける形で座ると、熱い手のひらが背中へと触れ、素肌に柔らかくあてがわれた。
むき出しの肌に少し震えるアゼルの手が触れてビクン、と肌が粟立つ。
それだけで体が……熱い。
そっとするから照れてしまう。緊張しているから余計だ。
いろいろと変な感じがする。
背中に触れていた手が前へ回ってくる。
ゆっくりと表皮をなでながら、そっと胸ごと抱きしめられた。
俺だけが肌を晒して、そこに触りのいいアゼルの袖が擦れるこそばゆい感覚。
「これは……なん……なんでこうなった……? いや……でも悪くねぇ……悪くねぇぜ……!」
耳元で熱い吐息に耳朶を温められながら、ぶつぶつと囁く声が聞こえる。
今の俺はまだわかっていなかったことだが、この〝悪くねぇ〟はツンデレ魔王なアゼルの〝控え目に言って最高〟だ。
アゼルは俺の謎の誘惑を、一応楽しんでくれていた。
「……っ……ん……」
敏感な首元へ嬉しげにすりつかれると、擽ったい。貧乳どころか胸板な俺の胸を覚束無い手つきでマッサージするように拙く揉まれ、恥ずかしさを誤魔化そうと声が出る。
ドッドッと先程からずっとうるさすぎる鼓動は、素肌ごと抱いているアゼルには伝わっているだろう。
そう考えれば、余計に頬が紅潮した。
「んん……シャルも今日、なんかすげぇドキドキしてるぜ」
「ふぐ、ぅ」
「血ィ吸ってないのに、いつも責任を取る時より……な、人間は胸を触られんのが、好きなのかよ」
「い、意地悪を言うな……」
困惑していたアゼルを押して丸め込んだツケを回収しようとしているのか、俺の言ったようなことをわざと返される。
それを言われると羞恥心が震え上がるのだ。催淫毒もなにもないのに心臓が弾けそうなことを指摘され、バツが悪くなって身悶えた。
「フフン。お前が先に言ったんだぜ?」
「うぅ……っ」
反論の余地がない笑み。
確信的じゃないか。
こうなると大人しくもみもみと胸をいじられることしかできず、明後日の方向を向く。
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