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第111話
まずはボディタッチだ。
自分の胸に当てていた右手を、そのまますぐ前にあるアゼルの胸に当てる。
「よし……」
「っ、っ」
気合を入れてそっと触れてみた。
……ん? すごく脈が早い。コレは魔族のノーマルなのか? なにか理由があるのか?
いやしかし、いつも抱きとめられたり抱き合ったりした時もこのぐらい早かったかもしれない。
やはりノーマルなのか、それとも病気なのか、俺は心配でゆでダコのような顔で固まっているアゼルをじっと見つめて眉を下げた。
大丈夫なのか?
もしかして熱もあるのか?
「アゼルのここ、ドキドキしているぞ。顔も真っ赤だ……これはどうしてだ? どこか病気なのか? 疲れているなら一緒に眠るか? 俺にわかるように言ってほしい」
「あぅぅ…………はっ! く……天然、ヤベえ……! だっ大丈夫だか、シャル、てっ、てっ、き、聞くなっ……くっくぅ……っ」
「トマトのようだぞ。本当に大丈夫か?」
困惑しながら尋ねると、どこからどう見ても異常しかない魔王はコクコクと赤べこ並みに必死に首を縦に振って、スーハースーハーと何度も深く深呼吸する。
非常に難しい反応だ。病気でないならなににそんなに興奮して……うん?
「……なるほど、そういう……」
これはまさか、いや、でもそんな。
悩ましいが、この様子はもはやこれしかないしな。それ以外に理由はない。
俺はアゼルの胸に手を当てたまま、ゆっくりと体を起こした。
起き上がろうとする俺を心配そうにしてまた腕の力を強くするアゼルに、大丈夫だと視線で頷き、スルリと起き上がる。
そしてそのままアゼルの胸に当てた手に力を入れた。
「ど、どうした……?」
薄暗いベッドで更に俺の体の影になり、仰向け状態でどぎまぎと尋ねるアゼル。
こうやって押し倒すじゃないが、ベッドに横たわるアゼルに横から覆いかぶさると、なんだか頭がホカホカしてくる。
それは俺も男だから仕方がない。
だがそれよりも、ここが勝負どころだ。俺が胸に手を置いただけでこんなにドキドキしているなんて、まさに好展開。
アゼルの胸に手をおいたままの俺は顔を赤らめ、彼を見下ろしながら勇気を出して提案する。
「こんなにドキドキするくらい……む、胸を触られるのが好きなら……俺が触ろうか?」
「…………」
うん。やっぱりこれしかない。
アゼルが図星を突かれたショックで絶句しているが、安心してほしい。
俺はお前の性感帯がどこだろうが付き合うし、精一杯満足してもらえるように頑張ろう。
むしろ俺が胸に手を置いたことでこうなったのなら、責任を取るぞ。
ついでにボディタッチで脈アリアピールという先人の知恵を実行するしかない。
「…………ハッ! まっ待て待てどうしてそうなったっ! 俺は胸を触られるのが好きってわけじゃねぇぞッ!?」
「おおう? そうだったのか。ごめん。早とちりしてしまった」
「グルルル……ま、まぁわかればいいンだよ。……でもお、ぉ、お前に触られるのは、好きだ」
「! それは、嬉しい。よ、よし。じゃあやっぱり揉もうか?」
「もっ!? もももももんがッ! じゃあってなんだ、バカ野郎!」
アゼルはかぁぁ……! と、せっかく落ち着いていた頬をまたしても赤くして、ぷんすかと不満そうに俺の胸をベシベシ叩く。ちっとも痛くない。
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