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第110話

 俺は作戦の方向性をきちんと考えることにしたものの、どうしたらいいのやら。  てんで思いつかない。  誰かに恋をしてどうにか好かれようだなんて考えたのが本当に昔過ぎて、どうやって距離を縮めていたかわからないぞ。  そもそも男を口説いたことはない。  女性と違って男を落とすなら、かわいいアピールをしなければならないと思う。  だが俺にはかわいさのかけらもないので、アピールポイントがそもそもない。  ユリスのようにどうあがいてもかわいければ、男の俺でも頑張りようがあったが……このとおり。  俺は愛しくなるようなかわいさもなく、慈しみたくなるような美人でもなく、頼りがいのある憧れ筋肉なイケメンでもない。  至ってノーマル。絶望的だ。 (そういえば前の世界でも、かわいい男は人気があったな……)  ええと、かわいい男といえばショタコンという人が有名だったか? あと男の子というものが流行っていた。  男の子。なにも珍しくないのだが、なにか間違って覚えているのか?  だめだ。男に恋することになるのであれば、きちんと覚えておけばよかった。  なんにせよ俺はかわいくもなければ少年でもなく、立派な二十六歳の男である。こっちにきてからは体が老化していないので、実年齢はもっと高い。泣きたくなる。  ……いや、卑屈になるな。  ユリスは魔族はあまり性別差を気にしないと言っていた、と思う。信じよう。  作戦名は〝ガンガン行こうぜ〟だ。  頑張って少しずつそういう接し方をして、アゼルが嫌がらないか、見てみるべき。そしてその態度から俺に対して嫌悪感がなければ、たぶん、望みゼロではないと思うのだ。  俺は未だに激しく脈打つ心臓を抱えながら、アゼルが悶絶している間にもぞもぞと動き、体勢を変える。 「はぇ……?」 「アゼル」  アゼルと正面から向き合う形になった。右腕は体の下に入れられないから、左腕だけをそっとアゼルの体を抱きしめるように回す。 「今日は本当に、ごめん。そしてその、ありがとう。俺はあの時必死に戦いながら……あ、アゼルに会いたいと、思っていた」 「っ」  よし、どうにか照れずに言えたぞ。  右手でドキドキと高鳴る胸を押さえる。  しかし俺に抱きしめられたアゼルはじっとこちらを見つめてビシッ! と固まってしまった。  なんで固まったんだ……?  わ、わからない。  これは嫌なのだろうか。  もしそうなら悲しい、じゃないまずい。気持ち悪がらせるつもりはないのだ。  臆病風にフワリと吹かれた俺は、回した左腕を回収しようかと動かそうとした。  だがそれをキャンセルするように、俺の首の下と背中に回っているアゼルの両腕が(本人は固まったままだが)ぎゅっと俺を抱き寄せた。  お、おお……? 嫌じゃないのか?  ホッとひと息。  それじゃあ少しずつボディタッチや遠まわしな言葉で焦らし、探りつつ、気があるような素振りを見せる、んだったかな。  昔テレビで得た知識をおぼろげに思い出し、拙いながらも実践しようとゴクリと唾を飲む。

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