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第130話

 それから何度もパレオを嫌がり、ビキニを嫌がり、股下五センチのショートパンツに難色をしめし、全く衣装が決まらない俺。  しかし憔悴し切る俺にユリスが 「着替えてからって言ったのに、魔王様ずっとそわそわして玄関待機なんだよ! さっさとバッチリ決めてかっこいいって思ってもらいたくないの!?」  と言ったので、途端に奮起して積極的に服の山を漁りだした。  ……俺もかっこいいと、思われたいのだ。 「うん。お前は顔が地味で派手な服に負ける……じゃない、端整に纏まってるしそこそこスタイルもいいから、シンプルなほうがいいね」 「原色が似合わない地味顔なのは知っているから、ダイレクトアタックはやめてくれ」 「なんでよ褒めてるでしょ!?」  鏡の前に立つバッチリ着替えた俺に、ユリスは遺憾の意を示す。  ユリスの中では最上級に褒めていたのか。アゼルとはまた違った解読困難なタイプだな。  鏡の中の俺は白地に紺色のストライプ柄のシャツと、アバラの下の腰まであるキュッと締まったこげ茶のパンツ姿だ。締まった部分に細工が細かい金色のボタンがついているが、それ以外はいたってシンプルである。  前に着ていた黒のパンツは、召喚魔法でしまっておいた。  もったいないからな。  新しい衣服を身にまとって、更に女子力の高いユリスによって髪も整えられた。なぜか顔にもぐりぐりマッサージを施され、いつも眠たげな目元がすっきりとしている。  肌もぷりぷりだ。俺は誰だ。俺だ。 「ユリス、俺はかっこよくなっているか?」 「この僕が協力してあげたんだから大丈夫に決まってるでしょ。あとはちょっとロマンチックで熟れた格好良いセリフでも言って、熱く抱き寄せればイチコロだよ。僕も玄関までついていってあげるから」 「ユリスかっこいいな……! ありがとう、お前に困ったことがあればきっと力になる。そしてこれはお礼だ」  感激してユリスの手を取りお礼を言うと、頬を赤くして顔をそらされる。  魔王様の隣を歩くのにふさわしいくらいにはしてあげる、と言われてこうなったが、少し自信がついた。嬉しい。 「も、もう! 大げさだね! お詫びなのにお礼なんて……これ、クッキー? あんまり魔界じゃ見ないよ?」 「俺の手作りだ」 「あぁ、お菓子屋さんってこういう……」  感謝の気持ちに、魔王城から出る前に確保していたベリージャムのクッキーを渡す。  あげられるものがあまりないのだ。みすぼらしいが受け取ってほしい。  ユリスはふーん、と言ってさっさと部屋を出ていった。  俺は慌てて追いかけたが、扉を開けると頬袋パンパンにクッキーを詰め込んだユリスが無言で手を差し出していたから、もうひと袋のせる。  なんだかこういうやり取りが友達のようで、俺はクスクスと笑ってしまった。  どんどん居場所ができてしまう。なんて幸せなんだ。

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