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第132話

  ◇ ◇ ◇  抜けるような青空の下。  海辺の街・スウェンマリナで、アゼルと俺は二人きりの初めてのデートを開始した。  二日前に自覚して、告白して、抱き合って、もう初デートだ。  恋のスピードが早過ぎて、キスもセックスも済んだカップルなのに追いつかない気持ちがお互いホヤホヤしている。  そもそもキスは出会って二週間で、どさくさに紛れてされていた。過酷な異世界勇者生活で好意に飢えていたせいか、自覚なく少しずつ恋愛感情を抱いていたのもある。  付き合う前から疑問に思うことなく吸血時の毒と言うドサマギ兵器で、順序をすっとばして触れ合っていたからな……。  それなりに成熟した大人同士だと、どうしても直接的な行為より甘酸っぱい逢引に浮かれてしまうのだ。  どぎまぎしながら繋いだ手がどちらも酷く湿っているのが、その証拠だった。 「この街は外壁が白くて、綺麗だな」 「あぁ。ここの建物の大半に使う白い塗料は、陽の光を弾くんだぜ。外側が白いと、建物の中が涼しくなるんだ」 「凄い。理にかなっている」 「ふふふん」  キョロキョロと視線を周囲に興味を持っていかれる俺が感想を述べると、アゼルはきちんと答えてくれる。  太陽光における赤外線や紫外線やらの概念がまだあまりないこの異世界。魔法でわからないものを弾くことはできないが、白いと涼しいことはなんとなく理解しているらしい。  新しい発見だ。  アゼルの守る国を知れたぞ。  アゼルと手を繋いでの街散策は楽しい。  昼間のスウェンマリナをちゃんと見るのは初めてで、俺は興味津々だ。 「大きな水の玉が空に浮んでいるのはなんでだ?」 「あれは海の魔族の水車だ。水魔も陸の奥まで行けるよう、ヴォジャノンたちが水車を運営してるんだよ」 「ふむふむ」  要するに水魔用のタクシーだな。  空に浮かぶ直径五メートルほどの水塊を、ほほうと見上げた。  ヴォジャノンは耐久型の魔物で、太った魚人のような姿をしている。顔はカエルだ。  水が支配されているのが気に食わないという水大好きな魔物なので、陸地での水の活動域を広げたのだろう。  アゼルとあーだこーだと話しながら歩いていると、魔界への知見が深まる。  昨日はすぐに人間だとバレて拐かされてしまったが、今度は俺の手をアゼルが引いているので誰かにぶつかることはなかった。  というか……俺たちの周りに、小規模な無人サークルが形成されている。  歩くたびにそれは移動し、サークルの外から魔族達の視線とヒソヒソ声が凄まじい。気になって目を向けると、全員から関わりたくないように勢いよく逸らされた。  現代では一般人だったので、非常に気になる反応だ。  悪いことをしているわけじゃないのなら、俺はちゃんと胸を張る。けれど魔界事情に明るくないので、知らず知らず迷惑をかけているなら申し訳ない。  表情の変化が緩めなので表に出ていないかもしれないが、俺は目立つのが得意じゃないので、余計に気になる。 「うーん……」 「くぅう……っデート、最高すぎるぜ……永遠にデートしてたい……是非とも魔界全域旅行を計画したい……」  アゼルは気づいているのかいないのか、周囲を気にする俺の手を変わらず引く。  よろよろと歩き発作を起こしながら顔を手で覆いつつ歩くアゼルは、なぜかこのざわめきを全く気にしていないようだ。  ということは、別に魔界の法律を犯しているわけではないはず。  ならば、もしかして男同士で手を繋いでいるからドン引きしてるのだろうか。  開放的だと言っていたが、流石にこれはだめなのかもしれない。  手をつないでいるだけでも、公衆の面前はよくないのかも。トコトコと街の石畳を歩きつつ、うーんと思案する。  ……俺のせいでアゼルがヒソヒソされるのは、嫌だな。

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