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第134話

「荷物なら俺の召喚魔法を使えば、シャルよりずっと大容量だぜ? 魔力の量に比例するんだからお前じゃ収納しきれないだろ?」 「こら、そこじゃない。買い占めたら他の魔族が買えなくなるだろう? 俺は持ち合わせもあまりない。買うものは他にもあるからな」  訝しんで首を傾げるアゼルがセレブ買いの諸問題をわかっていないので、ピコピコと人差し指を立てて理由を伝えた。  魔界の経済は回るだろうが、俺の経済力は余裕がないからな。  身の丈にあった買い物をしないと。  けれど説明を受けたアゼルは、クワッ! と目を吊り上げたかと思うと、今度はツーンとそっぽを向く。 「お前に財布を出す権利なんてねぇよ馬鹿!」 「? 魔界は買い物が権利申請制だったのか……?」 「く……っ、そうだぜ! だからシャルは俺といる時に、金を出すなッ」  なんてこった。  それじゃあ俺はなにも買えない。  魔界の法律に疎かった俺は、まさか財布を出すのに申請しなければならないなんて知る由もないのだ。  いろいろと予定していた買い物が出来ないと知り、ショックを受けて固まってしまった。  困ったぞ。城のお世話になっている魔族たちにお土産を買って、そしてアゼルにも恋人記念になにか贈ろうとしていたのに、これじゃあなにも日頃の恩を返せないじゃないか。 「くぅ、俺は一人で買い物もできない駄目な勇者だ……」 「! 馬鹿野郎、違うっ! だからその、仕方ねぇから、お……俺が全部プレゼントすんだよ! ここっ、こ、恋人なんだから、あたりまえだろうがっ」  密かな計画が全て水の泡となってしまう事実に、悔しくなって拳を握る。  するとアゼルがアワアワと慌てて、なにやら俺が買う的なことを言ってくれた。  養ってもらっている上に奢ってもらうなんて、それじゃあ意味がない。お前への贈り物も用意したかったんだぞ。  そう言おうとしたが、少し黙る。  アゼルの顔がとても必死で、ソワソワと落ち着きのない様子を隠そうとするあまり、挙動不審になっているからだ。  ……もしかして、俺が贈り物をしたいのと同じで、アゼルも俺になにかしたかったのか?  でも自分で買おうとしている俺に言い出しにくくなったので、咄嗟に言い訳を作ったのかもしれない。 「けれど、アゼルの負担にならないか?」 「当然だッ。店ごと買ったっておつりがくるぜ」  アゼルはフスンフスンと意気込む。  いつものまさに魔王様な煽り角度の見下し顔に婦女子が赤面する不健全な目付きだが、言っていることは「支払いは俺に任せろ!」だ。  もしこれが思い違いなら恥ずかしいが、俺は気づき始めている。  城のみんなは知らないかもしれないが、アゼルは……ツンデレの気があるんだ。  どうだ? 驚いたか。そうだろうとも。ちっとも気づかなかった。疑惑はあったんだが。  好きであればあるほど素直にそう言えない質、ツンデレ属性がまさか魔王についているなんて、きっと俺しか気がついていない。ギャップで大人気になってしまう。  ツンデレということで、誤解されやすいアゼルだ。ならば察する努力をするのもダーリンの努め。  俺はしょげるのをやめて口元に手を添えつつ、気恥ずかしさからうかがうような上目遣いで、アゼルをそっと見つめる。 「ん……それじゃあ、一着だけプレゼントしてもらおう。俺に似合うお前が着てほしいものを、選んでくれないか? 恋人のアゼル」 「おい店主! 早急にここからここまで全部包めッ!」 「ヒッかっかしこまりました魔王様ッ!」  ──一着だけだと……一着だけだと言うに。  セレブ御用達のセリフを並べたアゼルは、恐怖でガチガチに緊張してる店主に人型用の男性服を全部包ませ、満足そうにホクホクにやにやだった。  結局セレブ買いじゃないか。  あのやり取りはなんだったんだ? 結論が迂回しただけだぞ、ブルジョワめ……!

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