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第140話

 そんな俺を見て、アゼルはとすん、と俺の頭に手を置いた。  それからなでているつもりなのか、パソコンのマウスを動かすくらいのかすかな動きを見せる頭上の手。  そのうち脳天をクリックされそうだ。 「お、覚えてなくてもいいんだぜ。俺があれで救われたのは絶対で、だからこそお前が俺を殺しにくるのを待っていたんだ。……初めから、俺は負けたことを理由に捕まえようって思っていた。うまく言えねぇから、その……血のためだって言ったけど、本当は、あの時みたいにそばにいてほしかっただけだ」  俺は頭上の重みの心地よさに目を細めて、俺を飼ってくれた理由を話すアゼルを優しく見守る。  そういうことの経緯を話してもらうのは、初めてだ。  俺は本気で美味しいご飯のために飼われたと思っていたから、本当は今、内心安堵している。  血だって俺の一部だが、それだけだと他の異世界人を好きになるかもしれない。そんな不安が奥底にないわけじゃなかった。  アゼルは俺の不安を知らないはずなのに、俺は安心を与えられて胸がトクンと高鳴る。 「そんな俺は、ずるいやつだ。しかも尊ぶべき恩義だったのが……お前と関わるうちに、日に日に一人の人として、惹かれてるのがわかってた。独占欲が、あったんだ。でも……お、俺は恋をしたのがはじめて、だったから、変わった感情の名前が、すぐわかんなかったんだ……お前に全部踏み込ませて、言わせたのは、カッコ悪ぃぜ。俺はやっぱ、こういうの下手くそだ」 「ん……俺だって、男に恋するって発想がなかったから、あんなに触れ合っていたのに気がつかなかった。冷静になったら、気がある男じゃないとあんなことさせないな……カッコ悪い同士でいいんじゃないか?」 「お前が神か……」  なでていた手が瞬時にピタリと合わされ、真顔で拝まれた。俺は神ではなく不甲斐ないがお前の恋人だ。 「……ん」 「っ」  拝んでいるアゼルの合わされた手に、そっと自分の手を這わせる。  そのままそれをなでてじっと見つめると、アゼルは顔をそらしたが、目線はこちらを向いていた。  その目と視線を絡め、フリーのほうの手で人差し指を自分の唇に当て、薄く目を閉じる。この誘惑はわかりやすくて、アゼルにも伝わったようだ。 「ン」  手を捕まれ、そっと触れるだけのキスを落とされた。  少し離れてから、またすぐに下唇を食まれる。何度も触れ合わせ、首の角度を変えてキスをした。  じっと目を合わせながら、真っ赤な顔をお互いに晒し、ちゅ、ちゅとじゃれるようなキス。くすぐったくて愛しくて、楽しい。 「ふ、っ……そろそろ行かなければ、魔王城につくのは深夜になるな」 「……俺が本気で走るから、も、もうちょっとコレ、させやがれ」 「お前とならいくらでも」  クスリと笑い合って、額を擦り合わせるようにコツンと合わせて今度は深く唇を重ねる。  アゼルはキスが好きみたいだ。  俺もアゼルとするなら好きだ。おそろいだな。  お前の大切な思い出。それを覚えていなくても、その過去があるから今の俺たちがいて、こうして触れ合えるのだ。  そんな奇跡と浮かれた気持ちを、まずは確かめ合おうか。  ──その後。  俺たちがニ日ぶりの魔王城に帰ったのは深夜だったことと、そのまま同じベッドで寝ることになったことをお知らせするので、是非察してほしい。  くっ……! ひたすら唇を吸われてキスで気持ちよくなるように、一晩口内を隅々まで舐め回された……!  どんどん様々な性感帯を敏感に開発されている気がして、若干危機感を感じた俺なのであった。

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