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第141話

  ◇ ◇ ◇  スウェンマリナでのデート、じゃない視察から戻って二ヶ月が経過した。  つまり俺が魔王城で飼われてから、四ヶ月も経っているということだ。  早いもので季節は少し肌寒くなり、秋が深まり冬が目前に迫っている。  それでも温暖な魔界の魔王城周辺は雪が降ったりはしないので、俺は服装をVネックのグレーのセーターに変えているぐらいで変化がない。  なぜVネックかと言うとまぁ、飲みやすいように、な。  お粗末なファッションセンスから、俺はいつも似たような服を選ぶ。モノトーンや秋色の落ち着いたものが好きだ。  スウェンマリナは常夏のエリアだったが、魔王城はノーマルエリア。  防御力の高いアゼルも寒さは感じるらしく、近頃はいつもの身体にフィットするアジアンテイストな服装に、大きめの赤いショールを羽織っている。  しかし季節が移り変わろうとも、人々の日常は巡るのだ。いつものようにストレッチ、筋トレ、お菓子作りからの営業を済ませた俺とて、例外はなく。  通常業務を終えた俺は、恒例の最終地点でのんびりと事務仕事に精を出していた。 「よし、アゼルが目を通した書類、ダブルチェックをしてこのあと持っていく場所別に分けておいたぞ。新しく持ってきてもらった書類は優先度別に分けて用意してあるからその赤札を最優先してくれ。それから陸軍長の補佐官殿から報告だが、人間国の冒険者が最近目立つらしい。どうする?」 「ん。じゃあこれ、今処理したぶんの書類だ。そこの資料はもう読んで覚えたから、いらねぇ」 「ん。確保。粉砕。圧縮」 「…………」  特記事項の確認印やサインの抜け漏れがないか確認してから、場所別に分けた書類の束を木製の書類入れに纏める。  各部署からの日報ではない報告書を急ぎアゼルに確認しながら、渡された書類の束を受け取りダブルチェック。  アゼルが不要とフワフワ飛ばしてきた資料を魔法陣で結界に纏めて、そのままシュレッダーのように細かくしてからビー玉サイズに圧縮してゴミ箱へ捨てた。  アゼルは本当に全部の内容を覚えているから確認しないで捨てられるのは楽だな。  そばには無言のライゼンさん。 「人間の問題については、そこらに住んでる魔族がそいつらに討伐されんのは弱いからだから仕方ねぇけど街を荒らされたり幼体盗まれるとあとが面倒くせぇな……侵略者と盗み目的の冒険者だけ殺す、で」 「わかった。そういう返事で書類を作るからあとでサインな。アゼルはこっち判子押してくれ」 「あぁ。空軍にも頼む」 「もちろん」  カリカリと書類を作成する俺と、目を書類に走らせながらノールックでポンポンと判子を押すアゼル。そして無言のライゼンさん。 「あぁ、そうだ。補償金の請求額が合わなくて少しおかしいんだが、この街でここ最近災害でもあったのか?」 「あん? ねぇな。ノースロードは雪崩が多い雪街だが、今年はまだ三回だ。予算の足が出るわけねぇだろ。去年は八回。その前は六回。七、七、四、八。そもそも五割が雪男と雪女の街だぜ? 喜んで埋まってるくせになにに使う気だコイツら……ん? 金貨百五十八枚ってことはこれ雪まつりの費用じゃねぇかッ! 潰す」 「なるほどな……いいんじゃないか? 確か勲章受賞者が少なかったから、今年は催事費がいくらか余っていただろう? 足りないか?」 「まぁ金貨三百八十一枚の余剰があるから目をつぶってやっても財政には響かねぇぜ。だが一度許すと調子に乗るのが魔族だかんな。二十二年前、山にうっかり穴を開けた時は土下座して二度と水増し請求しねぇって誓ったくせに……」 「昔より親しみやすさが上がったから今のアゼルならいけると思ったんだろうな」 「今度雪山溶かしに行ってくる」 「ふふふ。雪山溶か、……や、山ごとか」 「いやほんと、どんどんハチャメチャになられますね。我が王は」 「「()?」」  やはり無言だったライゼンさんからツッコミを入れられ、流れるような作業モードからアゼルと二人、キョトンと首を傾げた。  おっと。あんまり集中していたからうっかりしていた。なにかおかしいか?

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