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第143話

「いたたまれない以外、私といたしましては構いませんけどね……このふた月デートと称して視察や会合に行ってもらうと、必ずその街で脅しをかけるのがね……なんでもそつなくこなす温厚な嘆きの魔王が、ただの溺愛の魔王というか……突然の凶暴化の理由が恋人を好きすぎる暴走だと民衆にバレていないのが、奇跡ですよ」  ライゼンさんは「思春期ですか?」と額に手を当てる。  否定はできない。ここにきたばかりの時、ツンツンと照れるアゼルを中学生みたいだと思ったが、中学生健在だな。  いい大人の二十六歳なので気持ちを抑えられる俺と違い、二ヶ月経ってもアゼルの初恋浮かれ気分はとどまることがなかったわけだ。  閑話休題。  大きなため息を吐いたライゼンさんは「私はいいですが他の臣下に見られると噂話が蔓延るので、ふたりっきりの時にだけイチャイチャしてくださいませ」と言い残し、俺の作成した書類とアゼルの決済した書類をかかえて執務室を出ていった。  あれで交際を報告した時、すごく祝福してくれたんだぞ?  視察に行かせて帰ってきたらなぜかくっついていた俺たちに驚いていたが、夕飯は豪勢だったのだ。  魔王様をよろしくと手を握られたとも。  俺がお土産を渡すと、自分の尾羽を閉じ込めた結晶をプレゼントにくれた。これがかの有名なフェニックスの尾か……!  最終ファンタジーの蘇生道具を手に入れ、俺は内心ではしゃいでしまったのも記憶に新しい。  一応彼のために補足すると、ライゼンさんの羽はそうブチブチとちぎれるものではない。だけどそれを俺に渡すくらい喜んでくれた。  アゼルが王になった時から、ずっと支えてきた腹心なのだ。忠誠心と親心を誰よりも持っている。  アゼルのことが大切なんだろう。 「っ、……っふ」  頬を緩めながら閉まった扉を見つめていると、不意に|耳朶《じだ》にねっとりと温かい感触がして、体が跳ねた。  続けてちゅ、と吸われ、シャラシャラと耳元で細やかな音が鳴る。  犯人は言わずもがな、俺の彼氏様。 「コレ、やっぱすげぇ……似合う。き、綺麗だぜ、シャル」 「ん……ふふ、お前の見立てが間違っているもんか。毎日鏡で見てしまう」 「うぐっ、お、俺だってコレ、毎日拝んでじゃねぇ眺めてるぜ」  照れ照れとしどろもどろなアゼルがコレと上げる腕には、細い蔦が絡み合うような紋様の入った銀色のブレスレットがあった。中央には深みのある青い宝石がハマっている。  アゼルがキスをする俺の右耳には、黒に赤の細工が入った二つ一組のピアスがついていた。首を動かすとシャラシャラと心地良い音がする。  これらは、お互いのプレゼントなのだ。  スウェンマリナで交際記念にプレゼントをしたいと思いこっそりと買っておいたら、なんとアゼルもこっそりとプレゼントを買っていて、意図せずプレゼント交換になってしまった産物。  青が好きな俺と黒が好きなアゼル。  互いの趣味が混じり合ったアクセサリーを、今では毎日身に着けている。  似ていないはずがどこか似ているらしい俺たちは、考えることが同じだった。  ちょっとだけ困るな。  気持ちを抑えられると言ったが表に出しすぎないよう抑えられるだけで、ちっともなくならない。好きには際限がないようだ。  だから鏡の前で、俺はいつも胸の奥がいっぱいいっぱい。ふふ、やっぱり困らない。好きだらけで浮かれている。

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