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第157話
刷り込みなのかもしれない。
朝起きると窓のない冷たい牢。
一人きりの冷めた食事。
仕事がなければ一日中そこにいた。
与えられた勉強をして、身体を鍛えて、あとはただ、ベッドに座って時がすぎるのを待つ日々。
そうだな……すごく……寂しかった。
俺には前の世界に家族もいないし、黒い会社に努めていたから仕事ばかりで友人もいなくなった。
それでも生まれ育った世界だった。
知らない世界で見た目も変わらず、異物として扱われるのは、少し辛かった。
だから、誰でもいい……ただの俺に、少しでいいから触れてほしくて。
見張りの兵士に、声をかけたことがある。
どの兵士も無視をしたが、毎日毎日懲りずに続けると、剣を突きつけられた。
剣術や魔法の指導者は俺を未熟で使えないと罵倒したが、頑張れば褒めてくれるのではと思って懸命に努力した。返ってきたのは、薄汚い暗殺者という侮蔑。
戦争に行った時も、俺は部隊とは距離を取ったところにいるよう命じられ、いつだって先陣と殿を務めた。
攻撃に成功し、全軍が戦利品を掲げた宴会を開いていた時。今日くらいは混ざっても許されるんじゃないかと近付こうとしたが、監視の上官が睨みつけたから、黙ってはずれで丸くなって眠った。
ずっと昔。
表向き勇者の健在をアピールするために凱旋パレードをしたことがある。
市場や民衆を見ていると浮かれてしまいつい気が大きくなって、花を渡してくれた少女にありがとうと声をかけて受け取ってしまった。
俺は王に呼ばれ、仕置きを受けた。
手足を縛られムチで打たれながら、必死に謝った。
花は、なくなってしまった。
夜は寂しくて、もうだめだった。
バレたくなくて、声を出さないで泣く方法を身につけた。
誰かに抱きしめてほしかった。
隣にいるだけでもいい。
言葉を交してほしい。
そんな思いがあった。
あの頃は確かに、誰でも良かった。
だからそばにいてくれと、言われたのは嬉しかった。
アゼルに言われたことがじゃない。その言葉が嬉しかっただけだ。相手は魔王でもなんでもよかった。
俺は今でも……アイツじゃなくても、そう言われたら愛してしまうのだろうか。
アイツだけ だったから、あいつを選んだのだろうか。
俺がリューオの言葉に頷き名前を変えて、人間国で居場所を作って、俺を受け入れてくれるたくさんの人と笑い合ったとして。
ありのままの自分を求められ──満ち足りた俺が、選ぶ相手は。
「ッシャル、なにか来る……ッ」
ハッとしたリューオが素早く立ち上がり、背中の剣を構えた。
戦闘の気配に俺ものろりと立ち上がり、周囲を警戒する。リューオ一人を戦わせる訳にはいかない。
真っ暗な闇の中。
月明かりと薪の炎の明るさだけが導だ。
遠くのほうから微かに聞こえたのは、こちらに近づいてくる狼の遠吠えだった。
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