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終章 本日のディナーは勇者さんです。
真・勇者襲来事件から、早一ヶ月。
この日の俺は自室で腕を組み、ガドとユリスと輪になって頭を悩ませていた。
「アゼルの様子がおかしい」
「魔王はいつもシャルのこととなるとおかしいぜ」
「なに言ってんの? 魔王様はいつだって完璧だよ。魔王様をおかしいと思うお前がおかしいに決まってるでしょ、斑ネズミ」
「俺はそんなにハムスターなのか……?」
二人から真逆のツッコミを貰いむむむと悩みが加速する。ハムスターの称号はガドに譲ったはずなのに、また返り咲いてしまった。
無邪気な銀色の竜人であるガドは、いつものように愉快そうな顔つきで悩む俺の頬をツンツンつつく。
魔界の海街・スウェンマリナの魔導具研究所で働いていたはずのユリスは、一週間前に栄転して、本部である魔王城敷地内の研究所に配属されたのだ。
今は魔王城に居を構えているぞ。
貴族であり海軍長官の息子であるユリスなので、身元はしっかりしているからな。
ちなみに、魔王城の一員となったユリス。
滞在三日でリューオに惚れられ、現在進行形で追い掛け回されていたりする。
リューオはかの有名なショタコンさんだったみたいで「ツンデレ美少年キタァッ! おいシャル! これが俺の求める萌えるツンデレだよ!」とバシバシ背中を叩いてきた。
……アゼルのツンデレだって、かわいいと思う。
アゼルが萌えないツンデレみたいでなんとなく張り合ってしまったのも記憶に新しい。
魔王城は強い魔族の仕事である軍人や官僚が多いので基本的に男ばかりだが、アゼルは一部の女従魔や城下の女性には人気なんだぞ。
コミュニケーション氷河期からコミュニケーション頑張る期に入ったアゼルは、親しみやすさがアップしているんだ。
現在は恐れられるだけではなく、きちんと慕われている。
女っ気がないから皆が二の足踏んでいるのだが。踏み込まれても困る。
じゃなくて。
冒頭でも言ったが、そんなアゼルの様子が最近おかしいわけだ。
まず、やたらと触れたがる。
まぁ付き合い始めてからもそうだった。それが少し度を越して、一緒にいる時は挨拶のごとく抱きしめてくるぐらいだな。
歩きにくいと言うと横抱きにされるから背中に貼り付けている。
次に、吸血しない。
以前は一日一度くらいの頻度で、毒がまわりきらない程度に少しずつ吸ったり舐めたりしていたのに、どうしてか近頃は一滴も飲まない。
そのくせたまに凄く物欲しそうに首筋を眺めているから、俺の血が不味くなったり飽きたわけではないと思う。しかし吸血しない理由はよくわからない。
そして最後。これが俺としては一番の問題なんだが……。
「一回したらすぐ寝られる」
「「あぁ〜……」」
見事ユニゾンされた。
最初の二つでは半信半疑だったユリスたちもようやく深刻だとわかってくれたようで、俺と同じく腕を組んで悩み始める。そうだろうとも。
知る人ぞ知ることだが、アゼルは初めての夜に朝日が昇りそうなほど何度も俺を抱いていたくらいには、底尽きない体力と性欲を持っている。
二度目以降も俺の身体を好きなように開発して変えていくのが面白いようで、一度すると何度も求めてくれた。
毎日するわけじゃないが、濃い。始めると歯止めが効かないのだろう。
そんな男が一回しただけでもう寝ると言い出して眠ってしまうなんて、信じられるか?
それも俺に背を向けてなにやら苦悶しながら丸くなってしまうのだ。いつも眠る時は抱きしめてくれるのに。
こうもあからさまに矛盾した行動を取られると、流石におかしい。
俺に対する普段の態度と夜も魔王であることを知っている二人は、確信を持つ俺の言葉に、ますます首を傾げた。
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