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第171話(sideアゼル)
真顔でグルグル考え事をする俺のスネをリューオが八つ当たりで蹴ってきたが、その痛みすら気にならない。
俺の頭の中には黄金装備の理想の自分を体現する方法しか考えつかねぇ。
種族擬態薬すら状態異常耐性のある俺にはほぼきかねぇし。八方塞がりだ。
「シャル不足でってテメェは逃げなきゃ今すぐにでも抱けるだろォが。毎日毎日サーチアンドデストロイ並みに追いかけてきてンだろ、アイツ」
「相思相愛だから当然だろうが。心臓おかしくなるから隠密フルに駆使するのホント困る。しかも追いかけてくるアイツを見ていると、背後に白い砂浜が見えてよ……夕日をバックにキャッキャウフフって感じするだろ? 別居中なのに抱きしめたくなんだよな」
「いやそんなほのぼのしてねェよな。キャッキャウフフってか現役魔王と実質暗殺者だった隠密マシンのガチ鬼ごっこだよな。お互い真顔で無言だよな」
僻みっぽいリューオは「逃走中のハンターと出演者でもあそこまで殺伐としてねェわ」と文句を言う。
あ? どこが殺伐としてんだ。俺が真顔なのは追いかけられるのがまぁまぁ悪くねぇからにやけそうなのを耐えてるだけだ。
シャルが無言なのは俺の全力逃走についていくのに必死で話してる余裕がねぇだけだぜ。というか、シャルが素で真顔っぽいのは地顔だろ。
本人は地味顔だと思っているものの、パーツの配置が整っているので実際男前な顔をしている。俺にはかわいいの擬人化に見えるぜ。かわいがりたい。
そうまでしてなぜ、という顔をするリューオ。俺はドヤ顔をしながら鼻で笑う。
これだから猪突猛進脳筋ミラクルバカは。相思相愛なら愛される努力を怠ってイイわけじゃねぇだろうが。
頭脳がマヌケか? 釣った魚に跪け。
シャルがいなくなるとギャン泣きする無様にガチ恋中の俺にとって、愛される理由はいくらあっても困らないんだぜ。
例えば、シャルがめかしこんだ俺を「一段とかっこいい」と言ってから俺は常に髪や肌を整えている。
桃の香りの香油を髪につけて、肌のために野菜を食う。俺は肉食なのに、だ。
夜会と執務にしか使ってなかった衣裳室をフル活用し、デート用の衣服をあれこれ悩み抜く。デートに誘うっつうハードミッションはまだできてねぇ。俺だからな。
しかし何手も先を読んで準備し、恋人をサプライズで持て成すのができる男なんだろ? 男性誌に書いてあった。
男の嗜みとして最中うっかり傷つけないよう爪を削るし、洗面所ではいい匂いのする石鹸を愛用してる。
軍部一のチャラ男──陸軍長マルガンに借りた女性誌は教科書だ。
城下で出回っている恋人に贈るハズさないプレゼントランキングなるコーナーを熟読して、上から全部贈ったからな。
アクセサリーだろ? ピアスはもうあげたからネックレスを三十本と、左右の腕にブレスレットを二十本ずつ。指輪は恥ずかしかったから宝石の原石を両手両足で二十個。好きな時に好きなものを着ければいい。
それから服だ。冬になって寒くなってきたから外套を七着。一週間着回せる。全部に洗い替えの同じものをつけた。
もちろん花も贈ったぜ。
面と向かって渡すのは羞恥プレイすぎたから、夜の間に部屋中に飾ってやった。
次の日シャルの配達がだいぶ遅かったから理由を聞いたら、なんか「ちょっとドライフラワーを作るのに時間がかかってな」と言っていた。
もちろん学習した。
次はドライフラワーを贈るのだ。
そしてそのマルガンの持っていた恋愛ハウツー本に書いてあった文言。
がっつく男は嫌われる。
ふふん、俺はがっつかねぇよリューオ。
お前はモロ当てはまってるからあとでその本を貸してやろう。
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