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第172話(sideアゼル)

 ククク。シャルが好きでい続けてくれる理由のための努力は厭わねぇ。  桃だって農家の常連になってるぞ。  もっともっと好かれてぇんだ。  シャルはかわいいから奪われるかもしれないし、引く手数多だろうが。これを言うとリューオはちっともわかりやがらねぇし、ガド以外は誰に言っても同意されねぇけどな。  万が一にでも愛想を尽かされたくない。  だから俺は尻尾を用意する。  ドラゴンの尻尾を。  尻尾のない俺よりある俺のほうが、同じ俺でも好かれると思う。故にだ。 「待っててくれ、シャル。俺は肉体改造するぜッ!」 「もう待てないんだ」 「待てないそうだぜ」  拳を握って盛り上がっていた俺は、影も形もなかったはずの本人降臨により、スムーズな立ち上がりでスッと腰をあげた。  が、素早く退路にリューオが立ちはだかり、その隙を逃さないシャルに腕を掴まれ、当然シャルを振り解けるわけがない俺はなんとあっさり捕まってしまった。  ちくしょう。いかにシャルのためなら頑張れるかを語りすぎた。  なんだよこの最強の拘束具は。振り解けねぇだろうが。  だが俺はまだドラゴンの尻尾を手に入れてない。一度言ったことをふにゃふにゃ曲げるのは格好悪い。格好悪い俺は見せたくない。  苦悩する俺を尻目に、シャルは人の無様を愉快そうに笑う極悪非道な勇者へ親指を立て、グッと突き出す。 「リューオ、ありがとう。ユリスは研究所から帰って部屋で紅茶を飲むと言っていたぞ」 「ヘッいいってことよ。いつかの敵は今日の協力者。俺は行くぜェッ!」  ──アイツ売りやがった俺をッ!  闇の取引きにより意気揚々と駆けていくリューオの後ろ姿が憎らしく、俺はグルルル、と唸り声をあげた。  しかしそんな俺の腕を掴んでいたシャルの手がスルリと滑り、俺の指に自分のそれを絡めて強めに繋がれる。  思わず「うひぃ」と変な声がでた。  普段は強引なタイプではないシャルだが、俺が引くとその距離を埋めに来るし、やると決めたらやるので躊躇しないのだ。  俺はその真逆だと言っておく。察しろ。  夕日ではない理由で赤らんだ頬のまま横目でチラリと伺うと、シャルは困り気味に眉を垂らし、上目がちにじっと俺を見つめた。いかんもうかわいい。 「アゼル、俺はそのままのお前が一番好きだ。それでも改造するのか?」 「やめる」  やめよう。  意地を張るのはよくねえ。イイじゃねえかふにゃふにゃの俺。言ったことは臨機応変に変えてこその柔軟性だろ。  握られていた手をギュウッと強く握り返すと、シャルはふふふと柔らかく笑って俺の手を引き、のんびり歩き出した。かわいい。ふふふだってよ……かわいい。  部屋を目指して城の上層階を歩くだけで、俺すこぶるゴキゲンだった。  魔王と手を繋いでこんなに嬉しそうに歩く人間なんて、世界中探してもシャルくらいだ。  俺を振り回すのもこうやって捕まえるのも、シャルにだけ許している。  シャルにしかできない。  シャルだけが俺の機嫌を簡単に操るが、それが嫌じゃないのだから、俺は感情の操作権までそっくり捧げる健気な男らしい。 「なんで肉体改造だったんだ?」 「んっ!? そ、それは……それはそれだろ。お前こそどうして俺以外の男にサンドされてたんだよ」 「うっ。そ、それはまぁ、おかわりの練習をしていただけだ」 「おかわりィ? あぁ、そろそろ腹が減る時間だな。肉か? 魚か? 桃がいいのか? 俺も腹が減って仕方ねぇから全部用意させるか。他に食いたいもんがあったらなんでも頼んでいいぜ。俺は優しい魔王だからなんだって振る舞うんだ」  最大限の〝お前の好きなものを好きなだけ食べさせてやるから一緒にディナーにしようぜ〟を告げると、シャルは少し頬を赤くした。夕日のせいか?  城の中を二人でこうやって歩くのは、久しぶりだ。  本当は今すぐ抱きついてだっこちゃん状態で歩きたいが、勢いで別居してたからタイミングも逃したし照れくさいんだよ。  まぁ手をつなぐのも悪くねぇぜ。

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