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第173話(sideアゼル)

 未だやや赤い顔のまま、シャルは夕食のリクエストを答えずに、俺を引き連れ人通りのない廊下のすみをいそいそと進んでいく。  その間、俺は無条件に興奮した。  だって久しぶりのシャルだ。全ての挙動が俺を煽って止まない男である。  かわいいな、クソ、かわいい。  外側も内側も男らしい男なのにどう見てもかわいいぜ。  キスしたい。舐めたい。噛みたい。吸いたい。食いたい。デロデロに感じさせたい。  俺を伺うように時折チラチラ見てくるのがたまんねぇよ。なんだその目付き。俺のこと大好きかコノヤロー俺のほうが大好きだコノヤロー。  ……いやいやがっつかねぇよ俺は。  下半身爆発しても耐えるぜ。  一切顔には出さず、腹を据える。  付き合いたての頃はちょっと浮かれすぎていたので、それを挽回するためにもここは忍耐の時だと思う。 「もう別居は終わりだから、一緒に俺の部屋に行こうか。俺は用事もなくて約束もないから……今日はもう、朝まで誰も来ない」  噛み締めながら並んで歩いていると、シャルはなぜか照れ臭そうに部屋に誰も来ないと告げてきた。二人きりで存分に食事を楽しめるって?  そうだな、俺もシャルと飯が食えねぇのは辛かったぜ。  俺はシャルといるとなんでも美味しく感じていつの間にか嫌いなナスを克服したのかと思ったが、シャルと一緒じゃねぇとやっぱり不味かったから今夜はしっかりたっぷりお前の好きなもんを食おう。  おかわりの練習で他の男にサンドされるくらいなら、好きなだけ食わせてやる。  練習しなくてもいいようにはじめからたっぷり用意するぜ。  なにを思ってあの方法になったのか知らねぇが、シャルは真面目な男だ。  どうせあれも真剣に考えた結果に違いない。練習しないとおかわりできねぇなんて、人間は変な種族である。  まあ確かにシャルは若干食が細いから、今までおかわりを強請られたことはねぇな。  俺はシャルの過去の生活を知らねぇけど、ここに来た時は三食おやつ付きに驚愕してたからな。じっとしていられないのか良く働くし身体も動かすから腹が減るはずなのに、一緒に食事をしていても控えめな量だ。  魔族がみんなよく食うと言うのもあるから人間は少食なのかと思ったが、リューオは滅茶苦茶食うしな……そう思うと我慢してたのかもしれねえ。物を強請ることが本当にねぇからな、シャルは。  いくらか前のことだ。  読書が好きなシャルだが、書庫があると知らなかった。  だからマルオと名付けた従魔が読んでくれと持ってきた唯一手元に有る本を、数ヶ月繰り返し読んでいたのだ。  ちなみにそれは一巻で、十八巻まで出ている小説である。  続巻が欲しくないのかと叱りながら全巻セットを差し出すと、続きを想像して楽しんでいたから問題なかったと笑っていた。  書庫があると教えてやったら、それはもうゆるゆる微笑んでありがとうと言われぜ。浄化された。  本好きの俺としては考えられない。  お気に入りの本の続きを我慢できるなんて忍耐強いにもほどがある。そんなに徳を積んでこれ以上癒し系になったらどうすんだ? 擬人化から化身になるのか?  閑話休題。  思い出を振り返りながら歩いていると、ようやくシャルの部屋に到着した。  到着と同時に繋いでいた手を離されて、密かにしょんぼりする。  魔王城はいろんな種類に対応してるから広くて、上層階に上がるのは人間には大変だろう。早くシャルにたらふくうまいものを食わせてやりたい。 「シャル、なにが食いてぇんだ? なんでも言え。従魔を呼んですぐ用意させてやる」 「くっ……アゼルのにぶちんめ……! あんなにアピールしたのに、過激派な魔族はボディタッチでしか気がつかないのか……? だが別居騒動が解消した途端に過激なお誘いなんて、男にサンドされていたことといい相当な淫乱だと思われるかもしれないな……くぅぅ……困る……」 「? なにをぶつぶつ言ってんだ?」  なぜか顔を両手で覆って珍しく俺のようにううと唸り始めたシャルに、俺はキョトンと首を傾げる。  どうしてそうなるのかはわからねぇが、唸る姿も最高にかわいい。  かわいいという言葉を人型にしたらシャルになる。絶対なる。間違いねぇ。

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