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第192話
「シンユウシャが言ってたなァ。シャルに胸キュンさせられた時の魔王の反応は、推しアイドルに近距離ファンサ食らったリアコファンのそれらしいぜ」
「えぇと、ファンサ? リアコファン? ちょっとよくわかりませんが、そういう種族がいるのですか?」
「俺もよくわかんねェ」
「迷宮入りですね……」
頑なに起き上がらずにブツブツと呟くアゼルと慌てる俺を尻目に、ガドとライゼンさんは神妙な顔でなにやら話している。
二人が慌てていないということは、原因はなにかしらの攻撃じゃないんだな。アゼル個人の問題か。
ならアゼルの言い分を聞いてあげたいのに、声が聞こえないぞ。
「困ったな……」
「だいたいなんだ。男気番長のくせに、大真面目な顔で大真面目にしゅきしゅきビームなんて意味のわからねぇ呪文を唱えやがってかわいいだろうが」
困ったところで解決しない。
「アゼル」
「あぁ?」
俺はトントンとアゼルを呼んでから自分の耳に手を当て、そっと耳を近づけた。
「お前の気持ちをちゃんと聞くから、もう少し大きな声で言えるか?」
「!? しゅ、しゅきしゅきビームッ!」
「ん!?」
◇ ◇ ◇
その後。
なぜか顔を真っ赤にし声を荒らげてビームを放ったアゼルは、無事ビームが効いていたらしい。
嬉しくなった俺が「よかった。これでガドをしゅきしゅきになるな」と言うと、アゼルは目を点にした後、無言でガドと俺を交互に二度見した。
事情を知ったアゼルは夜部屋に帰ってきても心做しか複雑そうな顔をしていたわけだが、その理由は俺のわからない話である。
でも、あの時は言えなかったが、アゼルもわかっていないだろう話があるのだ。
「アゼル」
「なんだよ」
おやすみのためにベッドでアゼルに抱きしめられながら呼ぶと、アゼルは少し体を離して俺に視線を落とした。
ほんのりと照れくささにはにかみ、アゼルの胸元に顔をうずめる。
「実は、最後にお前が放ったしゅきしゅきビーム……あれを撃たれた俺は、ガドじゃなくてアゼルに効果を感じたんだ」
「あ……?」
「アゼルが大好きな俺は、だいしゅきにもなってしまったぞ」
ガドを好きになるビームなのに、アゼルにキュンとしてしまうなんて、俺はどこまでもアゼルにゾッコンらしいな。
仕事の邪魔をしてまで恋心を擽られてしまったのが申し訳なくて言えなかったが、やっぱり我慢できずに言ってしまった。
ふふ、と秘めやかに笑う。
吐息が胸にかかってくすぐったかったのか、アゼルはビクリと震えた。
そしてそのまま、モゾモゾと手が動き始める。……ん? 手が動き始める?
「アゼル、なんで夜着の中に手を入れるんだ……?」
「俺は悪くねぇ。お前が迂闊にビームとやらを放つからだろうが。ビームのせいだぜ。仕方のねぇことだ」
「あの、はっ……なんで布団の中で下着を脱がせながら太ももを持ち上げ、っ……」
「ビームのせいだぜ。仕方のねぇことだ」
「っぅあ……っ吸血、んっ……んっ……」
「ひふぁふぁもふぇーふぉふぉあ 」
(仕方ないというかするのはいいんだが、なんでスイッチが入ったのかわからない……!)
吸血という王手を指された俺は、溺れていく思考の中でクエスチョンマークをあちこちに飛ばす。
しゅきしゅきビーム。
それは魅惑のビーム。
けれど、用法用量は正しく守らなければ、迂闊にあてられた魔王様が、有り余る大好きを物理的に注ぎ込むのである。
了
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木樫
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