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第191話

「ほォら。使えねぇなら魔法じゃねぇってことよ」 「チッ。この幼児銀竜め。相変わらず理解不能だぜ」  証明完了とばかりに胸を張るガド。  アゼルは不満たっぷりだ。  しゅきしゅきビームのなんたるかがわかっていない上に、ちっとも効いていない。  ガドはそれが不思議で、きょとんと首を傾げて俺のほうを振り向いた。 「シャル、シャァル? 一大事だぜ。俺のビームが効かなくなっちまった」 「うぅん、それは困ったな。どうしよう」 「魔王もしゅきしゅきにしねぇとヤダぜ。なぁ、なんとかしてくれよゥ、シャァルゥ~」 「よしきた」  そのままガドはがっしりと俺に抱き着いてなぁなぁシャルシャルとごねるので、俺は某ネコ型ロボットの気分でガドをなでる。  このあたりでアゼルの目がクワッと吊り上がったような気がするが、気のせいだろう。ガドだからな。 「アゼル」  俺はガドに任せてくれとコックリ頷き、ズズイとアゼルとの距離をつめた。 「なんだよ。爬虫類好きのシャル」  アゼルはフン、と不遜に腕を組み、俺を見つめ返す。  気持ち厳しめの眼光だ。魔王オーラがムンムンである。ラスボスに相応しい佇まいのアゼルは、間違いなく強敵だ。  元・勇者である俺は、おもむろに指をピストルの形に整え、その銃口をラスボスこと旦那さんに向けた。 「しゅきしゅきビーム」 「…………」  途端、アゼルの眼光が、さらに鋭さを増した。そして眉間に深々とシワを作ったまま、胸を押さえる。  だ、ダメか。  より不機嫌になってしまうとは、やはりアゼルにはビームが効いていないらしい。  困り果てて振り向くと、ガドは胸の前でハートを作った。ハートで撃てということだな? よしきた。リベンジだ。 「しゅきしゅきビームっ」 「…………」  今度は手でハートを作り、気持ちもマシマシで放ってみた。  俺は真剣そのものだ。眉をキリッと整え、戦闘中に近いくらいの覚悟を持ってアゼルを見つめる。  アゼルはカッ! と目を見開き、魔眼が発動するかと思うほど鬼気迫る表情で眉尻を吊り上げ、手を添えていた胸元をグッと掴んだ。もちろん無言である。  ハートを突き出す俺。  無言のアゼル。  ワクワクと見守るガド。  頭を抱えるライゼンさん。  止まったままの仕事。  緊張の時間だが、ううん、このままじゃ終わらないな。  アゼルは魔王だから、しゅきしゅきビームの耐性もあったのだろう。残念だが、諦めるしかない。  俺はハートを突き出したままほんの少しだけ眉を下げて、アゼルを見つめ、最後の確認のために首を傾げる。  この時、物欲しそうな声が出てしまったのは、ご愛嬌だ。  アゼルとガドの仲良し度が上がればいいなと、そういう欲望が出てしまった。 「……しゅきになってくれないか?」  その瞬間──アゼルはガンッ!! と真顔のまま執務机に頭をうちつけ、執務机に盛大なヒビを入れた。  待て待て待て。  衝撃波が生まれたぞ。 「一生推す……」 「あ、アゼル……!?」  俺は目玉をひん剥いてオロオロと慌て、うつ伏せたままのアゼルに怪我がないかと様子を伺った。 「しゅきになってくれないか、だと……? フン、なりすぎて脳が散るほどなってるだろうが。脳散り魔王だ。これで満足か? 俺は満足だぜ。むしろもっとやれ」 「アゼル、アゼル。突然机にヒビを入れるなんて、おでこが痛いだろう? 傷がないか、俺に見せてほしい」 「あくまで机でなく俺の心配をする。優しいの擬人化か。動悸息切れが収まらねぇだろうが。エンドレスドキがムネムネしてやがる」  一生懸命説得してみるが、アゼルは顔をあげない。  言っていることも至極小声なのでよく聞こえないが、おでこは痛くないのだろうか。

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