190 / 192
SS② しゅきしゅきビーム
「なぁシャル、知ってるかァ?」
「ん?」
うららかな午後。
のんびりティータイムを楽しむ俺に、巡回帰りののほほんを摂取しにやってきていたガドが、突然そんなことを言い出した。
「しゅきしゅきビームを放つと、相手が俺のことをしゅきしゅきになるんだぜィ」
「しゅきしゅきビーム」
マヌケに反芻する。
なんともご機嫌なビームさんだが、俺とは初対面だ。
知らないと言うと、ガドは流行遅れだとしっぽをビチビチうねらせ、おもむろに俺に向かってピストルの形にした指先を向けた。
「しゅきしゅきビーム!」
「お、おぉう……!」
銀髪長身イケメンのキメ顔と低く甘えた声で放たれる、しゅきしゅきビーム。
実際はなにも放たれていないのに、俺はなんだかなにかをモモモモーンと食らってしまった気がして、胸を押さえた。
「な? 俺のことがしゅきしゅきになっただろォ?」
「うん、うん。なったぞ。凄いな、ガド。ビームが放てるなんて」
「クックック。空軍の三バカがこれで遊んでたから、こっそり覚えておいたんだぜィ」
ガドはドヤ顔だ。ご機嫌にニマーと口角を上げる。
「そんで、俺は今からこれを魔王に放ちに行こうと思ってるんだよなァ」
「名案じゃないか」
ピストル型の指先をフッ、と吹くガドに、俺はパチンと指を鳴らして肯定した。
アゼルはいつでもガドがしゅきしゅきだと思うが、改めてビームを放ったっていいだろう?
素直じゃないアゼルが弟分に甘えるいい機会じゃないか。応援する気しか湧いてこない。
仕事の邪魔をするのは良くないけどな。
ほんの少しくらいなら、息抜きになると思う。うん。問題ない。忙しそうなら退散すればいいからな。
「そうと決まれば執務室へ急がねば。行こう、ガド」
「おうさ」
俺とガドはコックリと頷きあい、執務室を目指して歩き出した。
◇ ◇ ◇
「しゅきしゅきビーム!」
「…………」
やってきました執務室。
書類仕事をしていたアゼルとライゼンさんに挨拶をしてから、おもむろにガドがビームを放つ。
けれどアゼルは眉を歪めて「あぁ?」と言わんばかりのしかめっ面となり、無言で突き出された指先を見つめるだけだった。
んん、おかしいな。
モモモモーンとしたホットななにかに包まれて、ガドはかわいいやつだな、という気分になってしまうはずなのだが……。
「シャルさん。ガドは魔王様に、いったいなにをしているのですか?」
「ライゼンさん。あれはしゅきしゅきビームだ。ガドがあれを放つと、放たれた相手はガドがしゅきしゅきになるビームだな」
「えぇと……好き好き、ではなく?」
「ん。しゅきしゅき、だ」
大きな違いである。
ガド曰く「好き好きビームは効かねぇぜ~」とのこと。たぶん大事な要素なんだろうな。
そう説明すると、ライゼンさんはガックリと項垂れて「空軍長官にもなって、あの子はなんておバカなお遊びを……!」と嘆いた。楽しいお遊びだから大丈夫だ。
「……新しい魔法の呪文か?」
そうこうするうち、ビームを放ってから黙って見つめ合っていた兄弟の沈黙が、兄の疑問で破られた。
「ノンノン。俺のビームはまったりのほほんでほっこりホットなラブに満ちたビームだからなァ」
「お前の言っていることがわからねぇ」
「てーか魔法なら魔王でも使えるんじゃねえの? 使ってみろよォ」
「しゅきしゅきビーム」
ガドに言われるがまま、ビームの呪文を唱えてみるアゼル。だが、魔法ではないのでなにも放てない。
ともだちにシェアしよう!