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第4話
風紀室で事情聴取を終えた僕は何故か生徒会室へと連れて来られた。
部屋に居たのは会長さんと副会長さんだけで他の役員の人はもう帰ったみたいだ。暁人もいない。上良君がさっきの出来事を話すと、いきなり会長さんと副会長さんが僕に頭を下げてきた。
驚く僕に会長さん達は『多岐川を脅して生徒会に入れた責任が俺達にはあるから、今回の出来事は俺達にも責任の一端がある』と言った。
暁人を脅して…って?一体何の事?
「まぁ、ちょっとした多岐川君の弱味を握っちゃったから使わせて貰ったんだよ」
ニッコリ笑いながら副会長さんが教えてくれたけど、暁人の弱味…?
「結局、多岐川君がヘタレなのがいけないんですよ」
今度は上良くんがまさかの毒舌発言!…暁人が、ヘ…ヘタレ…!?
「ぶはっ!確かになぁ~。アイツがヘタレてたせいで太一君が大変な目にあったんだから、多いに反省させなきゃな」
「まあ、さっき呼び出したからそろそろ着くんじゃない?」
副会長さんが言い終わらないうちに凄い音をたてて扉が開いた。
「太一ーっ!!大丈夫かぁー!!!」
「あ…暁人!?」
息を切らし髪を振り乱して取り乱しまくった暁人がいた…。いつも落ち着いた所しか見たことがない、暁人の意外な姿に驚きを隠せない。
「あーーっっ!ほほ…頬が、太一の愛らしい頬が真っ赤に腫れてる…!痛いだろう、ごめん!ごめんな、太一…たいちーっ!!」
…え…、一体何事…って言うか、何があったのか僕の方が聞きたいんですけど…。
「…あ、暁人、僕は大丈夫だから落ち着いて…」
「これが落ち着いていられるかぁ!俺のせいで太一が…たいたがぁ…うっうっ…」
「…あーっ、鬱陶っしいっ!」
ずごん!!…と、凄い音と共に上良くんの手刀が暁人の頭の上に落ちた。
「少しは落ち着いたら?さっきあんな目にあったばかりの相澤君を驚かせるんじゃないよまったく…」
声にならないほど悶絶している暁人…。
「か、上良くんは暁人の事が好きなんじゃ、ない…の…?」
あまりの激しい仕打ちに恐る恐る聞いてしまう…。
「はぁっ!?相澤君まであんな馬鹿な噂を信じてたの?」
「…だ、だって僕が暁人といると怖い目で見てたし、お弁当届けに行った時も、冷たかったし…だからてっきり…その…」
「…あー…、…そっか、確かに態度悪かったよね。誤解させちゃったみたいでごめん」
…え…、誤解…なの?
「お弁当の件は相澤君が生徒会室に来る事で、変な誤解や噂をされたくなかったから早く立ち去らせたくてあんな言い方しちゃったんだ…ごめんね」
…え、じゃああれは僕の為を思って言ってくれた事だったの…?
「相澤君の事を怖い目で見てたと感じたのは…、まだ暁人君の事をよく知らなかったから…相澤君の事が心配で…。つい…、ね」
ぜっ…全然意味がわからない…?…?
「相澤君は知らなかったみたいだけど、暁人君って凄い遊び人とか下半身大魔神とかって噂があったりもしたんだよ」
「…えええーーっ!!!」
なっ何ソレっ!?
「だっ誰が性欲下半身大魔神だ!俺は幼稚園の頃から太一一筋だーっ!」
…な、な…な…っに、を言ってる…の!?
「性欲までは言ってないよ」
「…ぶっ!はっ腹痛え~っ」
「あ~あ、なんてまぁ間抜けな告白…」
「…ホントにどうしようもないヘタレだね…はぁ」
会長さん、副会長さん、上良くん…三人ともが呆れ顔で暁人を見ている。
「まぁ、後は若いお二人で…ってトコで僕達は退散しようか」
「ははっ、どこの仲人だよ俺達。まあ今回の詫び代わりに生徒会室貸してやるからキッチリ決めろよ?多岐川」
「これ以上ヘタレてたら僕が絞めるからね」
会長さん達は三者三様に言葉を残して生徒会室を去って行った。
残されたのは僕と暁人の二人だけ…。
「暁人…あの…」
いざ話を、しようとすると何から話せばいいのかわからなくなった。聞きたい事や確かめたい事がありすぎて頭の中が上手く整理出来ない。
「…ごめんな。太一」
上手く言葉が出せずにいると暁人がいきなり謝ってきた。
「俺の意気地がないせいでこんな事になっちまって…」
ぺしょん、って感じで暁人が項垂れている…。16年も一緒にいたのにこんな暁人を見るのは初めてで僕の方が慌ててしまう。
「…なっ、なんで暁人が謝るの?呼び出されたのは僕のせいだよ。そりゃ叩かれたのは痛かったけど、それも僕がちゃんと暁人に部屋替えの事を言い出さなかったからだし…」
「部屋替え…?…って、何?まさか太一俺との同室解消したいのかっ!?だっ駄目だ!そんなの絶対に許さないからなっっ」
「え…、でも暁人。生徒会専用の寮部屋に移らないといけないんでしょ?」
「はぁっ!?そりゃ確かに生徒会役員専用の寮部屋はあるけど俺は移動申請なんて出してないぞ!!」
あれ…?確かに専用寮は役員特権だから使うかどうかはその人の自由らしいけど、役員部屋は設備も一般の寮部屋より豪華だから大体役員になった人はみんなそうしてるって純くんから聞いたんだけど…。
「でも勿体なくない?せっかく大変なお仕事の分与えて貰える特典なのに」
変なトコで貧乏性だな僕…。でも専用部屋が設けてあるのは人気のある生徒会や風紀の人達と一般の生徒とのトラブル防止の意味合いもあるって純くん言ってたし。…でも、暁人は部屋替えの申請していなかったんだ…。暁人の為には部屋替えした方がいいのはわかってるけどやっぱり嬉しいや…。
「…太一は俺との同室が嫌なのか…?」
まさか!そんなはずない!思ってもいない事を言い出した暁人に慌てて否定しようとした僕に暁人はとんでもない事を言い始めた。
「…俺が朝本当は自分で起きられるのに、低血圧の振りして太一に起こして貰うのを楽しみにしているからか!?」
…は?
「それとも太一のエプロン姿に萌えまくって、裸エプロン妄想を毎日しているからなのか!?」
…えっ、えぇーーっ!!
「さらに太一の世界一美味しい手料理を食べる度に、太一を世界一美味しく料理して足の指先から髪の毛一本まで食べ尽くしたいと考えているからなのかーー!?」
……はああああああぁあーっ!?
「あの…ね、暁人…?一体何を言ってるの…?」
さっきから有り得ない言葉ばかり聞こえて来るんだけど…空耳…、かな…?そうだよね。暁人がこんな変な事ばかり言うはずない…よ、ね…。
「やっぱり太一は俺の事が嫌になったんだな…。だから弁当も作ってくれなくなったし、最近は素っ気ない態度でどこか距離があったし…」
混乱する頭を落ち着かせようとする僕の耳に暁人の力ない声が聞こえてきた。
「…やっぱり、俺は太一にとってはただの幼なじみでそれ以上にはなれないのか…?」
…え?
「…それ…以上、って…」
暁人が言っている意味…。それは僕が考えている事と同じなのだろうか…。
「…あき、と…それっ、て…」
僕の事を…そう言う意味で想ってくれているって、…そう、思っても…いいの…?
「…太一…、俺はずっと…、ずっと子供の頃からお前の事が好きだった」
「…あき、と」
「なぁ、太一…。お前にとっての俺はやっぱりただの幼なじみでしかないか…?」
暁人が…、僕の事を好き…?本当に…?
「…じゃあ、さっき暁人が僕に言った事は空耳じゃなくて本当のこと…なの…?」
あの…暁人が…。誰もが憧れるパーフェクトな容姿と頭脳と運動神経を持っていて、優しくて男女問わずモテまくりの暁人が…。
僕に起こして貰う為にずっと嘘吐いてたり、僕のエプロン姿に変な妄想をしていたり…そっ、それ以上の……¢%£…&#……。
ええええええぇーーっ!!
真っ赤になった僕とは反対に青ざめる暁人。
「…あ、やっ…、さっきのは…その………
~~~ごめんっ!!全部、本当に俺が思っている事だっ」
がばっ!…と、暁人が頭を下げる。
「この学園に進学する為に親父達のアメリカ進出への手伝いもしたし、心を鬼にして太一に受験勉強もさせた。この全寮制の男子校なら同室になれば幼なじみから恋愛対象として意識させやすくなると思ったからだ。そして同室になってからの二人での生活はまるで新婚そのもので、そりゃもう毎日が天国だった…」
暁人の口からまたビックリな話が語られる。
「だがっ、その生活が楽しくて悠長に構えてたのが悪かったんだっ!そのせいであの悪魔コンビに良いように扱われてしまうしっ、上良にまでいびられるしっ、太一との時間は無くなったうえに飯まで食えなくなった!!」
あ…暁人…、悪魔コンビってまさか会長さん達…?あの上良くんが暁人をいびってたなんて信じられない。…事もない…かな(さっきの手刀の事を思うと…)
「マジで地獄の日々だぁーー!!」
………大変だったんだね。全然気付かなくてごめん暁人…。
「オイコラッ!!さっきから黙って聞いてりゃ…、悪魔コンビってのは俺達の事か多岐川」
いきなり部屋の扉が開いて会長さん達が姿を見せた。…え、隣にも部屋があったの?
「自分のヘタレを棚上げして人のせいにするなんて百年早いって教えてあげようか?」
…え、帰ったんじゃなかったんですか?
「いびるなんて人を小舅みたいに言わないでよね…。大体君が相澤君にさっさと告白していたら今度の件は起こらなかったんだからね」
帰ったはずの会長さん達がいきなり現れて、容赦のない言葉を暁人に投げつけまくってる。
「……っ、なっんでいるんですかぁっ!帰ったんじゃなかったんですか!?…ってか、まさかずっと聞いてたりしてない…ですよ、ね…?」
「退散するとは言ったけど帰るとはひとことも言ってないよ」
ニッコリ笑って言う副会長さん…。
「仲人は頃合いを見て戻って来るもんだろ?まぁ、上手く行ったみたいだな」
いつから仲人決定してんですか、会長さん…。
「まだですよ会長。相澤君がまだ返事をしていません。あのヘタレが余計な暴走をしてせいで、相澤君が混乱してましたから」
冷静な状況判断ありがとう上良くん。…でもホントに暁人の扱いがぞんざいなんだね…。流石にちょっと暁人が可哀想になってきたかも…。
「…っ!そうだ、太一!返事は!?はいかイエスか嫁にきますのどれだっ!?」
…えっ?何その肯定しかない選択肢。
「…あー、もうっ!話が進まない。暁人君は暫く黙っててくれない?」
か、上良くん暁人は一応当事者なんじゃ…。でも上良くんの迫力に逆らえません。
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