4 / 139

3話/たいが

今日提出のプリントを集める為に、ムク犬にも声を掛けようとした。そしたらなんだかやたらと幸せそうな顔で、ポワンとしていたから肩を軽く叩いてみる。 すると小さな叫び声を上げて、ピョンっと跳ねるムク犬。虫とかに驚いて飛び上がる仔犬みたいだった。 オマケに、ぴゃあっ!なんて男子高校生とは思えない叫び声付き。 ぐりぐりしてえなあ…。 驚かせた事を詫びるとムク犬もちょっと照れながら謝ってくる。 撫で繰り回したい衝動を抑えつけ、どうにか笑顔を作る俺。 「今日提出のプリント集めてるんだけど貰っていいかな?」 心の内を悟られないようにあくまでも爽やかに問いかける。 「あっ、プリント!自分から持っていかなくてごめんなさい」 催促しないと提出しない奴が多いのに、ムク犬は出し忘れてた事を謝りながら鞄を覗きこんだ。 こんな素直なトコもムク犬の可愛いさのひとつだなと、心の中の観察日記に記しながらプリントを待っていると、ムク犬が泣きそうな顔で鞄から顔を上げた。 潤んだでかい目で俺を見上げてくるムク犬…。 待て待て待てっっ!なんだ?何なんだ!?そのいきなりの上目遣い攻撃はっ。 心の中で、もんどりうちながらも顔には爽やかな笑顔を浮かべ続けて尋ねる。 「どうかしたのかい?」 「…ごめんなさい。プリント忘れて来ちゃった…」 ムク犬のぺしょりと垂れ下がった小さな耳と尻尾の幻影が見えた気がするぜ…。

ともだちにシェアしよう!