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7話/たいが
観察日記を(心のなかで)付け始めて約一月。それはムク犬の事を、間近で見るようになった日数でもある。
ちっこい元気な仔犬がいて、その仔犬がよく餌を貰ってる光景をたまに目にしてはいたが、俺にとってはただそれだけで特に気に留める事じゃなかった。
ムク犬が気になるようになったのは、同じクラスになってからだ。とにかくちっこいし、懐こいし、よく笑うし、よく餌付けされてるし…。
今まで出会った事のない、不思議な生き物だったから自然と目が追っていた。
勉強は得意じゃなさそうだが、いつも一生懸命ノートを取ってる。せっかくやってきた課題を忘れて来ちまうそそっかしいトコが、また愛嬌があって可愛い。
昼休みは本当に幸せそうにメシを食ってる。まさに至福のひとときって感じのムク犬に、周りの奴らがやれ菓子だのジュースだのを与えてるが、あのふにゃりと笑って喜ぶ顔を見たら確かにやりたくなるよな餌…。
流石に仔犬だけあって動き回るのは好きらしく、体育の時間は生き生きしてる。…が、なにしろちっこいのでバレーではボールと一緒に飛ばされたり、バスケではボールと一緒に転がったりしてる。
コロコロと転がってる仔犬を見たときに、初めて萌えと言う言葉が理解出来た気がする。…と、まあこんな感じでこのひと月ムク犬の事を見てきた訳だが、俺は大事な事を失念していたってコトにようやく気付いた。
それは、ムク犬を飼いたいと思っているのが俺だけではないんだと言うことだ。鷹取の話では、ムク犬の飼い主になりたがっている奴は結構いるらしい。
まず鷹取が名を挙げたのは
生徒会長の桜木一馬
サッカー部エースの九条桐亥
柔道部主将の牛島昴生
陸上部花形スプリンターの熊谷充
因みにこれは有名な奴らだけで、他にもムク犬を狙ってる奴は相当いるらしい…。名を挙げた奴らはムク犬との接触をよく図っていて、ムク犬も結構懐いているとかって話だった。
つまり同じクラスになったばかりの、ただのクラスメイトである俺は大分遅れをとってるって訳だ。
ふ〜ん…、だがまあいいさ。スタート位置なんて問題じゃない。
要はムク犬が誰を飼い主だと思うかだ。
俺が飼いたいと思った以上、どんな事をしたって俺のものにしてやる。
覚悟してろよ…?河合椋。
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