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37話/たいが
「ごめんなさいっ!無茶な事を言って」
そう言って、いきなり頭を下げて謝ってくるムク犬。
「え…?河合…?」
「いくら宍倉くんが優しいからって、宍倉くんの背丈を分けて欲しいなんて無茶な事を言って、きっと困らせたよね!?ちみっこい僕にとっては切実な問題だけど、宍倉くんにとっては八つ当たりみたいな事だもん。本当にごめんねっ」
は…?
い、ま、ムク犬は背丈…って言った…か…?
はい?
ムク犬の言葉に、俺は数時間前の出来事を頭の中で巻き戻す。
『ん…あのね、僕…宍倉くんの………が欲しい…の』
宍倉くんの………が欲しい…の
宍倉くんの…『背丈が』…欲しい…の
まーーじーーかーーっ!!
俺の早合点…、思い込み…、錯覚…、幻聴……、だったって事か…。
ははははははは……はあぁ〜〜〜っっっ。
あーもーまったく!天下の“Simha”の元総長ともあろうこの俺が、これじゃあまるで初めてのデートで舞い上がって、やらかしちまった中坊じゃあねえか。
本当にムク犬相手だと、自分が自分じゃなくなるみてえだ。こんなの安っぽい歌の歌詞の中でだけの事だと、笑っていたけど…。
あるんだなあ本当に。そしてそれは、決して悪い気分なんかじゃないって事。笑い話みたいな出来事だけど、泣きながら頭を下げるムク犬を見てたら、これも悪くないって思える。
ムク犬の笑った顔、怒った顔、拗ねた顔、焦った顔、そして泣き顔。
その全部が俺を捕えて離さない。そうだ捕まったんだ俺は。この小さな、仔犬みたいな可愛い可愛い少年に。
恋を、したんだ――。
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