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73話/たいが

今朝の3人揃っての登校で、衆目を集めていたのは気付いていたが、俺達の会話を盗み聞いた上に、妙な脚色を加えた噂を流しやがった奴…、シメるっ! 男しかいないこの学校では同性でも顔の良い奴は何かと注目される為に、不本意だが俺はモテてる。キャーキャー言う野郎共の野太い声に、被った猫を何度剥ぎ取りかけた事か分からねえ。 そんな俺と、爽やかイケメンスポーツマンの九条、そのうえ学校のマスコットであるムク犬が並んで登校していたんだから、そりゃ目を引いただろう。 だ・が! 話の端だけ聞いて勝手な噂を流しやがって…。 ムク犬が貰えるだの、食い放題だの…、ろくでもねえ噂のせいで、こんな奴まで首を突っ込んできやがった。 リレー勝負を挑んできた熊谷は、ヘラヘラ笑っているが目はまったく笑っておらず、俺を挑発している。 チーム対抗リレーは、陸上部員の参加は認められないので、部対抗のリレーでの勝負を挑んできた熊谷。口振りは軽いが、熊谷の目は真剣だ。コイツも、本気でムク犬を狙ってやがるのか…。 「ムク犬!なんでそんなお馬鹿な話に乗ったのっ!」 熊谷の挑発に気をとられていたら、ムク犬が卯月にお玉で頭を殴られていた。おお…、まるで調教師のようだ。鞭ではなくお玉なところが、小動物クラブらしくて笑える。 「おっ、お馬鹿じゃないよ?宍倉くんとトーイくんの熱い友情の為なんだもんっ!」 だぁ〜っ!だからその鳥肌ワードはよせっ!ムク犬! 「友情とお弁当がどう繋がるのか、全然わかんないよ。むっくん」 「あのねっ!真央くん。宍倉くんとトーイくんは、ライバルと書いて、友と呼ぶ関係なんだよっ」 「益々わかんないよ…」 「宍倉くんとトーイくんの間には、熱い友情が芽生え始めているのっ!リレーで闘う事によって、その絆は一層深まっていくんだよっ?」 うおぉおいっ!ムク犬!お前の思考回路はどうなってる!一体どこをどう通ってそんな結論に辿り着いたんだっ!? 「その説明はまったく意味が分からないけど、要するにむっくんのお弁当を賭けて、宍倉君と九条君がリレーを走るって事?」 「そうなのか?宍倉」 卯月が、俺に向かって問い掛けてきた。 「ええ、要約するとそう言う事です」 友情云々は、このさいスルーだ。もともとムク犬の頭の中の妄想だし。 「じゃあムク犬を賭けてるなんて、ふざけた話じゃないんだな?」 念を押すように、卯月が言ってくる。 「ええ、勿論です」 そっちは噂を流した奴らの妄想だが、あながち外れてもいない。ムク犬の弁当も、ムク犬本人も、欲しいものは同じだからだ。

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