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118話/たいが
「九条…、テメエこんなとこまで張り付いて来やがって、どう言うつもりだ!?とっとと帰れ!」
「俺も友達の別荘に招待して貰ったんだよ。たまたまテメエんちの別荘の近くだったようだがな」
「何がたまたまだっ!熊谷と連みやがったなテメエ!」
「はっ!調理部の子達を餌で釣り上げる卑怯者に言われたってなぁ?」
何でこいつらが揃いも揃ってここに居やがるんだ?
せっかく邪魔者のいない場所でムク犬との距離を縮める作戦が、どんどん違う方向に行ってるじゃねぇか!ふざけてんじゃねぇぞ!!
「トーイくん!トーイくんまでここに遊びに来たの!?」
いきなり現れたストーカー共にブチ切れる俺の心も知らずに、ムク犬が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ああ、熊谷に招待して貰ったんだよ。これでムクと夏休みを楽しめる…な…!?」
ムク犬の声に嬉しそうに振り返った九条だか、その姿を見て言葉を詰まらせる。
「…むっ、ムクムク…、そっ、その恰好は…」
「あっ、えっと、その…、やっぱりヘンかなぁ…?子供っぽいよね?」
顔を赤らめて恥ずかしそうに俯きながら言う可愛いムク犬に、九条の野郎が鼻を押さえて悶えてやがる。くっそ!目ん玉くり抜いてやりてえっ!!
ちっくしょう!この可愛いムク犬は頭の天辺から尻尾の先っぽまで、全っ部俺だけのものだったのに、なんで九条の野郎の目まで楽しませてんだー!
「ああ…、このムクムクを見られただけでも、熊谷に頭を下げて連れて来て貰った甲斐があったぜ…っ!」
両手でガッツポーズをする九条に
「うん!僕もトーイくん達と一緒にこんな素敵な所で遊べるなんてスッゴい嬉しいよっ!そうだっ!せっかくみんなが揃ったんだもん!ねっ!今日の晩ご飯はみんなでバーベキューしない?」
九条の言ってる事の意味を解さないまま、またムク犬がとんでもない提案をぶちかましやがった!
「おおっ!そりゃいいな!」
「楽しそう~。お肉たくさん持ってくねぇ~」
いつの間にか傍まで来ていた熊谷が話に乗っかってくる。
「じゃあ食事のあとで花火とかしないか?来る途中で色々買ってきてあるんだ」
「はなび!楽…しみ!」
牛島の提案にバンビが嬉しげにちっこい尻尾をピルピルと振った。
「ねっ?みんなもいいでしょ?大勢の方が楽しいよねっ!」
「…はぁ。もうしょうが無いね。場所は宍倉の別荘でいいよね?」
楽しげなムク犬とバンビの様子に、卯月も言い合いを辞め諦めたようにため息を吐きながら頷いた。
「じゃあ、飲み物は僕らが用意するよ。他に必要なものがあったら遠慮無く言ってね?」
桜木がそう言い、
「わあっ!嬉しい-!じゃあ早く戻って用意しなきゃ!」
「え?いや、ちょっと河合!?」
止める間もなくムク犬は小動物達と一緒に今来た道を足早に戻って行く。
え?何だこれ!?
これってもしかしなくても、俺とムク犬だけの楽しい楽しい夏休みが、小動物達どころか特大お邪魔虫共 を加えての、サマーバカンスになったって事か?
ちょっとまてっ!!どうしてこうなるんだーーっ!?
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