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第131話/むく
午後からのお買い物はトーイくんと一緒に回ることになった。
イケメン組がインディーズアイドルだと言うデマが広まったせいで追っかけの人とか出始めて、5人が固まっていると騒ぎが大きくなってしまうみたいで。仕方がないのでペアで分かれて行動することになったんだ。
そうすると部長といたがるカズ先輩、シマくんに構いたいミツくん、コウ先輩にくっついてる三葉くんの3組は自然にペアになるので、残った4人は交代でペアになることになった。
大雅くんとトーイくんをペアにしちゃうと、今度はデュオアイドルとか噂になっちゃいそうなので、僕と真央くんが交代で組むことに。
そんな訳で今日の午前中は大雅くんと、午後はトーイくんとペアで行動することになったんだ。
木立に囲まれたお洒落な通りにはレストランやカフェ、雑貨屋さんなど色んなお店が建ち並んでる。
スパイスの入った試験管立てとか地元の名山を象 ったクグロフとかの面白いものから、お茶のジャムなんて珍しいものもあって目移りしちゃう!
にこちゃんは甘いものが好きだからやっぱりお菓子がいいかなぁ。いっくんには文房具とかどうだろう。お父さんとお母さんには定番だけどこのお揃いのマグカップとかいいなぁ。
トーイくんとあちこちのお店を見て回ってると、スウェーデンの家具や雑貨が並ぶ北欧雑貨のお店を見つけた。
さっき知ったばかりの大雅くんのもう一つの故郷。大雅くんと仲良くなって半年近くなるのに、そんな大事なことも知らなかった僕。
考えてみたら僕って大雅くんのことあんまり知らないのかもしれない。
僕の知ってることって言えば、成績優秀なクラス委員長でバスケ部の次期エース、抜群のルックスと優しい性格、欠点の見当たらないパーフェクト王子こと宍倉大雅くん。
お家は財閥系企業の宍倉グループと多分関係のあるお金持ちで、高級ホテルの総支配人をしている大雅くんと似ている従兄弟の士狼さんがいる。
本当に全てがハイスペック過ぎる大雅くん。
僕と友達になってくれたのが嘘みたいなのに大雅くんは凄く優しくって、僕はどんどん大雅くんが好きになっていく。
「ムク、くたびれた?」
「うっ、ううん!素敵なものばかりだから迷っちゃってた」
大雅くんのことを考えてたらボーッとしていたみたいで、トーイくんの呼びかけにビクッとしてしまった。
大雅くんのことを考えててボーッとしてたなんて、ホントのことは恥ずかしくて言えないから誤魔化すように陳列棚に目を向ける。
僕の目線の先にはふわふわしたテディベアがあった。
…あ、この子クゥに似てる…。
昔持ってたクマのヌイグルミ。クマさんだからクゥって名付けたアプリコットのテディベア。
「結構あちこち見て回ったからそろそろ休憩しよっか、さっきの美味そうなジェラート買って川辺の方に行こうぜ」
「わっ!嬉しい!ジェラート食べたかったんだぁっ」
トーイくんの誘いにテディベアに伸ばそうとした手を引っ込め、雑貨屋さんを出てジェラートのお店へ向かった。
ジェラート屋さんには、たっくさんのフレーバーがあって迷いに迷った末、一番人気のピュアミルクと果物と人参のダブルを注文した。
するとトーイくんは僕が最後まで迷ってたピスタチオとヨーグルトを注文してくれて、一口づつ交換しようって言ってくれた。トーイくん優しい!
ジェラートを持って川辺まで行くと同じように寛ぐ人の姿がある。
トーイくんと並んでベンチに座り川のせせらぎを聴きながらジェラートを口に運ぶ。
ミルクは濃厚だけどアッサリした口当たりで、果物と人参はマンゴーの中に野菜の味が感じられてどっちもとびっきり美味しいっ!!
トーイくんから一口貰ったピスタチオもヨーグルトも美味しくて、全部のフレーバーを制覇したくなっちゃう!
「ムクは本当に美味そうに食うなあ」
「だってホントに美味しいもんっ!美味しいものが食べられてしあわせぇ~」
「…そうだな。食べられるようになって良かったな」
「うんっ!」
…あれ?今のトーイくんの言い方ちょっとヘンじゃなかった…?
「ムク、口のとこ付いてる」
「わっ!自分で出来るよー」
ハンカチで口元を拭いてくれるトーイくんに慌てたせいで、僕はさっきの違和感はすぐ忘れてしまった。
「そろそろ集合時間かな」
携帯で時間を確認すると待ち合わせの時間が近づいていた。待ち合わせ場所に向かおうとした僕にトーイくんが雑貨屋さんの紙袋を渡してきた。
「ムク、これ良かったら貰って?」
「えっ?」
てっきり家族や友達へのお土産だと思っていた紙袋を僕に差し出して来たトーイくん。
「店でずっと見てたから気に入ったのかと思ってさ」
紙袋の中にはあのふわふわのテディベアが入っていた。大雅くんのことを考えてボーッとしていた僕をテディベアを見ていたって勘違いしちゃったんだ。
「嬉しいけど、悪いよ。トーイくん」
クゥにそっくりなこの子が僕のもとに来てくれたのは嬉しいけど、さすがに申し訳ない。
「昨日、怖い思いさせちゃっだろ?お詫びと思って受け取ってくれると嬉しい」
昨日ってテニスの時のこと?あれは怪我もしなかったし、トーイくんは部長から制裁の打球も受けてたし、最初から全然気にしてないんだけど…。
でもトーイくんが気にしてるのなら、受け取った方がいいよね。
「テニスでのことは全然大丈夫だからもう気にしないで!これ、ありがとう。この子昔持ってた子にそっくりで嬉しい!大事にするねっ」
僕がそう言って受け取るとトーイくんはとっても嬉しそうに笑った。
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