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第132話/たいが

あちこちの店を九条と廻るムク犬が気になってついつい後を追い掛けてしまう俺。 これじゃ俺の方がストーカーじゃねえか! それをわかっていても止められない俺を小西も止める事無く付き合ってくれている。 カフェの土産物コーナーや雑貨屋などで二人で楽しそうに商品を選ぶ姿はまさにカップルそのもので、俺は何度も割って入りそうになりその度に小西にヤンワリと腕を引かれた。 頑張れ!俺の忍耐力っ! 雑貨屋で買い物を済ませた二人はジェラート屋へ向かった。 何十種類ものジェラートから何を食べるか選ぶのに真剣に悩んでいるムク犬が可愛くて堪らない。 やっと決めたムク犬に「こっちも食べたかっんだろ?一口づつ交換しようぜ」などと言って九条がムク犬を喜ばせていやがる。 くっそー!俺なら全種類買ってやるのに-! 「全種類なんて食べきれるわけないでしょ~。そう言うの重いし、ああやって選んで食べるのが楽しいんだよ?」 なぜ、俺の心が読めるんだ小西! 川辺のベンチに腰を下ろして、まずお互いのジェラートをスプーンで掬って食べる二人の姿に安堵する。もし『あ~ん』とかやられていたら小西が止めても絶対に割り込んでいただろう。 「宍倉くんの目にはカップルに映ってるかもだけど、あれって放課後に買い食いする友達同士の光景だよ~」 (ほぞ)をかむ思いで二人の様子を見守る俺に小西がそう言う。言われてみれば確かにその通りで、俺も分け合いはしないが鷹取とああやって買い食いしてるな。 と、納得しかけたところで九条の野郎がムク犬の口元に付いたクリームを拭おうとする。そしてそれを恥ずかしがって避けるムク犬の姿が! どー見てもあれは友達(ダチ)の範疇を超えてるじゃねーかー! 思わず小西を睨むと、小西はてへっ!と笑ってスルーしやがった!オイコラ! 「でも九条くんって一年のときからむっくんと一緒に朝通学してるみたいなのに、プライベートな付き合いって殆どないみたいなんだよねぇ」 誤魔化すように話を振ってきた小西だが、それは俺も不思議に思っていた事だったので話に乗る。 「そうだね、九条のキャラなら遊びに誘うなんて簡単に出来るだろうにね」 そして言葉は悪いが無防備なムク犬を手懐けて、もっと親密な関係だって築けただろうに。 俺がムク犬を知ったのは同じクラスになってからだから、一年先に知り合っている九条が本気でムク犬にアプローチしていたなら俺の立ち入る隙は無かったかも知れない。 猫被りキャラが災いしてこの体たらくの俺と、理由はわからないが一定の距離を保っていた九条。 そんな九条も俺がムク犬に近づき始めたことで本気を出して来たのか…。 「九条くんは結構強力なライバルだと思うよ?」 フンワリと笑いながらも嫌なことを言ってくる小西。癪ではあるがそれは確かだ。 「まあ、それは宍倉くんにも言える事だけどねぇ。二人ともハイスペックなんだもん。特に宍倉くんって欠点が見当たらないし」 「それはどうもありがとう」 謙遜するのも嫌味なので素直に礼を言う俺に、小西がフンワリとした笑みをニンマリとしたものに変えてこう言った。 「それが本当の宍倉くんなら、僕も安心してむっくんを任せられるんだけどねぇ」 「………えっと、小西?」 あれ?もしかして小西、俺の猫っ被りに気付いてる…? 「あ、そろそろ集合時間みたいだね。行こうか」 問い掛けようとした俺をスルーして歩き出す小西にもう一度問い質すのも躊躇われ、俺も歩を進めた。 …なんか小西って見掛けと違って侮れない気がする!

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