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第135話/むく

「じゃあ次は成形していくよ~。調理台の上に丸めた生地のとじ目を上にして置いて手のひらで丸く平らにつぶしてねぇ」 ベンチタイムが終わった生地をベーグルらしく成形していく。パンを作ってるって感じがしてワクワクする! 「奥から空気が入らないようひと巻きして、手前から奥にグッと押して、しっかりとくっつけてね~」 丸めた生地の閉じた所を綺麗に塞ぎ、くるっと巻いて力をかけてくっつける。 「あとの生地もおんなじように巻いて棒状にして、最後はしっかりととじて~。巻いた生地の真ん中にに両手を置いて、転がしながら手を外側に移動していってね~」 こんな風にって実演してくれる真央くんを参考に、くっつけた生地を20cmくらいまで細長く伸ばしていく。 「長さをしっかりと出さないと、中心の穴が小さくなるから気をつけてねぇ」 そっか、真ん中の穴が潰れちゃったらカッコ悪いもんね。カッコいいベーグルを目指すぞぉ。 「とじ目をまっすぐな状態で上にしておいてから片っぽの端を平らにつぶしたら、もう片っぽの端を平らにした部分で包み込むんだよ~」 むむむ…?伸ばした生地の端っこ同士をくっつけてドーナツ状にするってことかな? 「とじ目は目立たないように内側か下の方にして仕上げてねぇ。ひっくり返してから包んだ部分をしっかりと閉じるんだよ~」 なるほど!継ぎ目が目立たない方がカッコいいベーグルになるもんねっ。よし!頑張るぞー! 「マオ先輩!こんな感じで大丈夫か?!」 「マオ先輩…、ここ上手く出来ない…」 「うん、シマは綺麗に出来てるよ~。三葉は端っこをもっと平らにしてから包んでみてごらん」 真央くんは自分の作業をテキパキと進めながら、皆の様子を見て的確な指示を出してる。 頼れる先輩って感じでカッコいいなぁ、真央くん。 「よし。みんな綺麗に成形出来たねぇ、それじゃこのオーブンシートを敷いた天板に並べていってね~」 次はオーブンの発酵機能を使って、35℃くらいのあたたかいところで、成形した生地がふたまわりくらい大きくなるまで発酵させるんだって。 真央くんが準備してくれたシートの敷かれた天板に、それぞれが成形した生地を並べていく。 部長のどれも綺麗に出来てるなぁ~。シマくんのも少し不揃いだけど丁寧に仕上げてある。三葉くんのは几帳面な三葉くんらしくどれもキチンと揃ってるし。 僕のは僕なりに頑張ったけど、ちょっと不揃いで不恰好なのもある。やっぱり経験の差かなぁ。くすん…。 真央くんのはもちろん文句なしのプロ仕様の仕上がり!ホントに真央くんスゴーい! 「だいたい30分から40分くらいで膨らんでくるから、片付けをしてちょっと休憩しようか~」 「さんせーい!喉渇いたっ」 「…けっこう、力使う…。腕いたい」 「パン作りはやっぱり重労働だね。毎朝こんな大変な事をしてくれてるんだな、ありがとう真央」 「ふふっ、僕は慣れてるから平気ですよ~、部長。でも有難うございます」 そう言いながらテキパキと作業して行く真央くんの手際の良さに見惚れてしまう。 僕もお家でお菓子はよく作るけど、真央くんと比べたらやっぱり趣味レベルなんだなって思い知らされちゃう。僕も本気でパティシエを目指すなら、製菓の技術だけじゃなくて体も鍛えないと駄目だよね…。 プロの職人になるのなら筋力もいるし体力だっている。僕とそれほど体格の変わらない真央くんなのに、お店のお手伝いでしっかり鍛えられてるんだなぁ。 真央くんは将来(ゆめ)のためにもう日々努力を重ねてるんだ…。さっきも感じた寂しさをまた覚えそうになって僕は頭をブンブン振った。 おいてかれちゃうのが嫌なら僕も頑張らなきゃ!夢に近づく為にちゃんと考えよう。 「ムク先輩、大丈夫か?」 「ホラ、お茶が入ったよ。休憩しよ〜」 頭を振り過ぎてフラフラする僕をみんなが心配してくれる。うう…情けない。くすん。 トントン…。 ちょっとしょんぼりしてると階段を降りてくる足音が聞こえてきた。あれ?大雅くん、もう起きちゃったのかな?朝ごはんが出来るのにはまだ時間が大分掛かちゃうけど、お腹空いて目が覚めたとか…? 気になって見に行くと玄関の方へ歩いて行く大雅くんがいた。 「おはようっ!大雅くんっ」 僕が声を掛けると振り向いた大雅くんが笑顔で挨拶を返してくれる。 「おはよう、椋」 わわっ!椋だって!まだ名前を呼ばれるのに慣れてなくってなんだか気恥ずかしい…。でも嬉しいっ! 「ずいぶん早いんだね?ごめんね、朝食はまだ時間がかかりそうなんだ」 「いや、何だか目が覚めちゃったから散歩にでも行こうかと思って。今朝は皆でパンを焼くって言ってたけど上手くいってる?」 「うん!今は生地を休ませてるの。真央くんが分かり易く教えてくれるからみんな上手に出来てるよっ」 僕のはちょっと形が不揃いだけど、みんなのは綺麗に出来てるもんね! 「そっか、小西の焼くパンはどれも美味しいから楽しみだね」 大雅くんも真央くんの焼くパン気に入ってるんだ。そうだよね、真央くんのパン本当に美味しいもんね。 「…う、うん…。美味しく出来るように頑張るね…」 上手に焼けたら大雅くんに食べてほしかったけど、やっぱり大雅くんは僕の不格好なベーグルより真央くんの美味しいベーグルを食べたいかな…。 「はーい、次はケトリングの作業に入るよ〜」 オーブンの予熱をしながらケトリングっていう生地をお湯で茹でる工程を行う。これをやることでベーグルのもっちりした食感が出るんだって。 「まず鍋に沸かしたお湯にモルトシロップを入れて溶かしてね〜」 麦芽糖を煮出したモルトシロップを加えると焼き上がりの風味や色艶が良くなるんだって!フランスパンとかのリーンなパンには必ず使われてるらしいよ。 「お湯が再沸騰したら火を弱めてね。ぐつぐつと沸騰しすぎてると、皮がかたく仕上がっちゃうから気を付けてね〜」 発酵が終わってフンワリ膨らんだ生地をやさしく持ち上げてベーグルの表面を下にして、お湯の中にそっとひとつずつ静かに入れていく。 「片面をだいたい30秒くらい茹でて、裏返したらまた30秒くらい茹でてね〜。途中で隣どうしがくっつかないように気をつけて〜」 真央くんの指示どうりにお鍋のなかのベーグルを離しながら、茹で上がったらレードルで掬ってよ〜く水気を切って天板の上に戻した。 「じゃあ、あとは焼くだけだよ〜。15分くらいで焼き上がるからね〜、お疲れさまでしたぁ」 温めておいたオーブンに茹で上げたベーグルたちを天板に並べて焼成したら終わり! 「有難うございました!真央先生」 「だから先生はやめてってば〜」 ふわぁ〜。初めて作ったパン、どうか美味しく出来ていますようにっ! …大雅くんに食べて貰えますように。

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