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1.お友達から、始めましょう①

 美術家一家に生まれた俺は、家族の中でも一番の落ちこぼれだった。一方俺の兄ちゃんは生まれ持っての奇才で、学生時代には学生コンテストの賞を総なめするような寡黙な人で、今はプロの絵描きとして活動している。俺はその背中を追いかけて追いかけて、追いかけることに疲れてしまった。大学は一応芸術大学に入ったけれど、所属したのは『ヤリサー』と悪名高いテニスサークルで、金髪にインナーカラーのピンク髪を少し伸ばして前髪をヘアピンでとめ、ピアスもジャラジャラに男で遊ぶ日々が続いている。 「唯月(ゆづき)ぃ、次こっち!」 「んはっ……はぁいはい、ちょい待ち」  ヤリサーといっても勿論当初は男女間のものであったテニスサークルを、崩壊させたのはこの俺である。生まれ持ったかわいらしい顔と細身の女性的な体、高校時代から養ってきた色々なテクニックで、俺は女の子たちを蹴落としてこのサークルの『姫』とでも呼べる位置に成り上がった。そもそも大学のテニスサークルなんて、まともにテニスをやることの方が少ないのだ(うちの大学だけか?)。女の子が次々幽霊部員になっていったこの部室で、俺は剥き出しの男性器に囲まれて『あはっ』と笑う。咥えていたものからじゅぽっと顔を離し、手でこすっていたもう一本に顔を近づけ横髪を耳にかけながら、ぱくりと加えてじゅじゅっと吸い上げる。 「はぁっ。やっぱ唯月のフェラさいこーv」 「んっ、んっ、んっ」  俺のフェラを褒める男を無視して、俺は頭を前後に動かし手で根元を擦る。膝たちになっている俺のホットパンツを後ろから男たちが脱がしにかかって、元々ローションを仕込んであるアナルを見て『えっろ』とため息を吐いている。もう誰のかもわからない指がナカに侵入してきて、ぐぱっと俺の柔らかいケツ穴を広げて笑う。『唯月ちゃん、まじメス男子ぃ』と俺をからかうも、俺はフェラに集中しているのだ。無視する。その内やっぱり背後から、どいつのかも分からない男性器が突っ込まれて、『んん゛っv』と、少し濁った声を上げる。 「はぁっv ちんぽキタぁっvv」  これが一番効くのだ。そう、俺の家庭でのコンプレックスに、歩んできた劣等感だらけの日々に、こういうインモラルなセックスだけが俺の慰めとなるのである。 ***  流行りのシャツにホットパンツといった一風変わった格好の、でも似合っているから誰にも注意されたことのない俺は、講義空き時間での情事を終えて、一応その日の午後の講義に出席する。  いつもは出てはいないが、もうすぐテストなのだ。誰かにレジュメを見せてもらわないといけないからと、テニスサークルの奴らも同じくそういう輩達だから、講義前のホールで真面目そうな生徒を俺は探した。 (……見つけた)  後ろの席から最前列。クソ真面目に必修講義を受けている黒髪の、体格のいい真面目そうな後ろ姿を見つける。そっと横顔を見てみると、それは鷲鼻が特徴的な、ずいぶん整った端正な男前で、はっきり言って俺のタイプであったから(ラッキー!)である。講義中は携帯を弄って時間を潰して、講義が終わって教授がホールを出ていくと、帰り支度を始めたその長身ガッチリ男に俺は駆け寄る。 「ちょっとちょっと、キミ!」 「……はい?」  俺に呼ばれてから少し間があって、呼ばれたのが自分だと気が付いた男前は俺を振り返る。正面向くとより、男前が加速する真面目くんだ。きっと女の子にもモテモテだろうが、まあそこは俺には関係ない。俺はいつものかわいらしい表情でこてっと首を傾げてにっこり笑って、その男前くんと建前のお話をする。 「キミ、ねえ名前は?」 「名木(なぎ)だけど」 「名木くん! 俺、前から名木君のこと、格好いいって思ってたんだ」 「はあ」  媚びるような上目を向けても、名木からは気のない返事しか返ってこない。心の中ではムッとしつつ(この俺が、話しかけてるんだぞ!)と考えながら建前の続き。 「名木くん、専攻は?」 「ピアノだ」 「あっ、ピアノの名木くん!? もしかしてあの有名な名木家の、」 「ああ、たぶん合ってる」  両親ともにピアニストの名木家のお坊ちゃんが、この大学にいるとは聞いていたがこんなにイケメンでガッチリしているとは。俺が家族の名声を褒めても名木はつらっとしていて、チラッと時計を見ては時間を気にする素振りを見せる。 「あっ、ごめん時間無い?」 「ああ、ちょっと」 「えっと、実は……今日は君にお願いがあって」 「授業の資料(レジュメ)だろ」 「えっ」  ズパリ図星を突かれて俺は一瞬息をのむ。『あはっ』と笑ってさらに誤魔化そうとしたのに名木の言葉が重なってくる。 「キミは、普段この授業には出ていないよな。もうすぐテストだから、大方真面目そうな俺に取り入って、レジュメをコピーしようという魂胆だろう」 「うっ」  ため息をつくでもなく、名木はつらつらと真剣そうな男前でその長台詞を言う。なんだこいつ、嫌な奴かよ。だったら別の奴に……思って俺は頬を膨らませる。 「なんだよ、そんなのごめんってか? いーよ別に、他の子に頼むし」 「? 別に嫌だとは言っていない」 「えっ!?」 「ただし、」  いつもべたべたと、男たちに性的に触られ慣れている俺の頬に、いつもはぺちぺちと男性器を擦り付けるためだけの頬に、名木はその綺麗な筋張った手を添えて、俺を口説く様に低い声で囁いてきた。 「ひとつだけ、君に頼みがある」  その男前っぷりに思わず一瞬ぽうっとして、すぐにハッと気を取り直した俺は『なっ、何!?』と、らしくなく頬を染めて、そのまま名木に手を引かれ、人気のないピアノ練習室に連れ込まれたのであった。

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