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第3話

いつものようにシーグさんの仕事が終わるまで母さまの樹の下で丸まって眠って待つ。 こないだはお城の中を覗いていたら、同じ年生まれのハイカにばったり会って逃げていたら迷子になっちゃったから今日は大人しくしておこう。 隊長さんも訓練が終わったら会いに来てくれるって言ってたし、迷子になって会う時間が減ったりしたら大変だもんね。 母さまの樹の下で隊長さんに抱っこして貰ってる夢を見てたら、なにかがボクの頭をつつく気配に目を開ける。 「きゅ〜?(隊長さん?)」 ヘンだな、隊長さんならいつも優しく撫でてくれるのに…。目を開けて見上げた先にあったのはハイカの姿だった。 「よう、出来損ない」 「きゅ…(ハイカ…)」 「ふん、お前まだ喋れないのか」 ボクたちは目覚めの日が近づくと、毛並みの色が変わり鳴き声しかだせなかった言葉が人と同じように喋れるようになる。ハイカはボクと同じ月生まれで再来月には目覚めの日を迎えるから、白だった毛色もオレンジ色へ変化が見られていた。 「お前は相変わらずの薄汚い色の毛だなあ、言葉も喋れないしやっぱり出来損ないは目覚めの日なんてこないんじゃないか?」 「きゅ〜!きゅ〜うっ!(そんなことないもん!ちゃんと立派な神獣になれるもんっ!)」 「って言うか、お前まだカイゼル侯に引っ付いて回っているらしいじゃないか。少しは侯の立場も考えろよ名門のカイゼル侯爵の傍に、お前みたいな出来損ないが付いてたりしたら侯の名声に傷が付くってもんだろうが」 「きゅー!(隊長さんはボクのことを大事にしてくれてるもんっ)」 「お前の里親と侯は幼友達なんだろ、それで邪険に出来ないでいらっしゃるだけじゃないか」 「きゅう〜っ!(違うっ!そんなことなんかない!)」 「まさかとは思うけど、お前カイゼル侯のパートナーになりたいなんて思ってたりするんじゃないだろうな?」 「きゅきゅっ!(そうだったらなんだって言うのさっ!)」 「うわ〜ありえねえ〜、カイゼル侯みたいな人が今までパートナーを持たなかったのは、最高の神獣と組ませたいって王様も大臣達も教会だって考えていたからなんだぜ?カイゼル侯がフリーだからってお前みたいな出来損ないがパートナーになれる可能性なんかある訳ないじゃん」 「きゅうっ!(決めるのは隊長さんだっ!)」 例え王様や大臣達が色々言ったって、隊長さんが選ばなければ誰もパートナーにはなれないんだから。 そうだよ。例えアルティアが望んでたとしても隊長さんが望んでなきゃ、ボクにだってまだ可能性はある。 「ちっ、エナのくせに生意気だぞ!目覚めの日が近いのにまだそんな色斑な毛並みでさっ、なんの加護も与えられてないくせにっ!その点オレなんか炎の加護がもう与えられてる。どうだ羨ましいかっ!?」 「きゅ〜(…でもオレンジじゃんか)」 いちいち憎らしいことばかり言うハイカに腹が立ったから、そっぽをむいてポツリと言った。 全部がそうとは限らないけど、色が濃いほど加護の力は強いと言われている。 炎の加護なら、真紅の赤が一番強い。でも時たま二つの属性を併せ持つ神獣がいて、その色が交じり合う為に淡い色合いになる神獣もいる。 例えば光の加護と炎の加護を受けていたら、真紅ではなく輝きのある橙になったり。でもハイカのはただ普通にオレンジって感じだ。 「〜っホントに生意気だな!出来損ないエナ」 「きゅっ!(いたっ!)」 コッソリ呟いた言葉はハイカの耳に届いてしまったようで、怒ったハイカに噛み付かれてしまった。 「きゅきゅ〜っ!(離してよ〜っ!)」 「どっちにしたって、カイゼル侯のパートナーにはアルティアがなるのさっ!どんなにお前が頑張ったってアルティアには適うもんか!」 噛み付いてたボクの耳を離したハイカは、そう捨て台詞を残して去っていった。 「きゅ〜(決めるのは隊長さんだもん…)」 そう決めるのは隊長さんだアルティアをパートナーにするのか、それともシーグさんの言っていた目覚めの日を待っている誰かをパートナーにするのか。 でもハイカに言われなくたって、本当はボクだって分かってる。 ボクが隊長さんのパートナーに相応しくない事なんて。 …でも大好きな大好きな隊長さんと、ずっと一緒にいたかったんだから夢を見るくらいいいじゃないか。 ボクをパートナーにしたがる人なんて、現れるかどうかさえ分からないんだから。 だからいつか隊長さんのパートナーになるんだって、そう思ってたら頑張れたんだから。 ボクにとって隊長さんのパートナーになるって言うのは大切な夢で、みそっかすのボクにとって隊長さんはボクの希望だったんだから…。 「きゅう…(ハイカの馬鹿…)」 それっくらいの夢…、見させてくれたっていいじゃない……。 「エナっ!」 いつも気付かない振りをしていた事実をハイカに言い当てられて、しょんぼりしていたボクだったけど隊長さんの声が聞こえた途端にぴんっ!ってシッポの先まで元気になっちゃった。 「きゅきゅ〜っ!(隊長さあ〜ん!お仕事お疲れさま〜)」 すりすりすりすり…… はう〜ん。隊長さんは汗の匂いまでカッコいいよう〜。 「こらこらエナ、くっつきずぎだ。シャワー浴びてないから匂うだろ?」 「きゅっ!(隊長さんの匂いだから全然平気っ!)」 「エナもお日様の匂いがするな、尻尾がいつもよりフカフカだ。よいしょっと」 隊長さんの腕の中に抱き抱えられたボクは、さっきのことなんかすっかり忘れてとってもご機嫌! 「エナも大分重くなってきたなあ。初めて会った時は片手に乗りそうなくらい小さかったのに」 「きゅう〜(そこまで小さくないよう)」 「でもこの手触りの良さはまったく変わらないな」 そう言って隊長さんはいつものように、ボクの背中を優しく撫でてくれた。 「エナも再来月には目覚めの日を迎えるんだから、重くなって当然か」 隊長さんの口から目覚めの日の話が出て、さっきのことを思い出す。 隊長さん…ハイカと神官さまが言ってたことはホントなの?そう尋ねたかったけど、シーグさんがいないから通訳してもらえないし…。 でもボクが喋れたとしても尋ねる勇気はなかったからこれで良かったのかも…。 「目覚めの儀式か。周りも随分煩く言うようになってきたし、私もそろそろ決めねばならんな」 …え 「特に教会が煩くてかなわん。私は私の考えがあると言っても示しがつかんのなんのと言って次々と勧めてくるし…、パートナーが優れた神獣であるのに越した事はないだろうが、大切なのはお互いの相性ではないか。なあエナもそう思わないか?」 優れた神獣…アルティアのことだ。隊長さんとアルティアとの話やっぱり本当なんだ。 じゃあアルティアの目覚めの儀式が終わったら、本当にアルティアが隊長さんのパートナーになっちゃうかも知れないの…? そんなっ…そんなのやだよう隊長さん…っ。

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