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第5話

目覚めの日を七日後に控えても、ボクには相変わらず何の変化もなかった。 隊長さんのパートナーが決まってしまうかも知れないのに、このままボクは目覚めの日を迎えることさえ出来ないかも知れないなんて。 ボクにはチャンスさえ与えて貰えないの? 隊長さんにパートナーが出来たら、もう今までみたいに甘えたり出来ない。 ボクはボクのパートナーを探さなきゃならないんだ。そんなのイヤだよう。隊長さんがいいの隊長さんじゃなきゃイヤなんだ。 「エナ、今日は僕お城に行かなきゃならないけど一人で大丈夫?」 「きゅ…(大丈夫だよ心配かけてごめんね)」 目覚めの日が近づくにつれて、ボクはますます元気がなくなっていって、シーグさんにはずっと心配をかけてしまっている。 シーグさんに心配をかけたくないけど、どうしても気分が沈んでしまう。このまま目覚めの日が来るまで、何も出来ずにいるしかないなんて。 何か方法はないのかな…。その為にボクはなんだってやるのに。 シーグさんが出かけてからしばらくたった頃、玄関の扉をノックする音が聞こえた。 誰だろう…。玄関を開けるとそこにいたのはハイカだった。 何でハイカが家に来るの? 「目覚めの日が間近だってのに、やっぱり斑色のままか…」 「きゅ(そんなことを言う為にわざわざ来たの?)」 開口一番、そんなことを言うハイカに苛立つ。 「なあエナ、お前カイゼル侯のパートナーになりたいんだろ?」 「きゅ…っ(だったらなにさっ)」 また身の程知らずだって言いに来たのかと思うと、さらに苛立つ。 「…お前、龍の谷って知ってるか」 「きゅ…?(龍の谷…?)」 ハイカはいきなり何を言いだしたの? 「そこにはな、神獣に力を与える秘石が祠られているらしいんだよ」 「きゅう〜(それがなに?)」 「その秘石の力を借りれば目覚めの力が強くなって、すごい神獣に変化出来るかも知れないってことだよっ」 「きゅっ!?(ほっ、本当っ!?)」 「ああ、秘石の力欲しくないか?」 その話が本当なら、強くはなれなくてもせめて目覚めの変化だけは、迎えることが出来るかも知れない。 そうしたら隊長さんに選んでもらえる可能性だって、0じゃなくなるんだ。 欲しいっ欲しいよ秘石の力。 「きゅう〜!(その龍の谷ってどこにあるの?)」 「西のルーテル山の向こうだ。エナに行く意思があるならついて来い」 「きゅ?(ハイカも行くの?)」 ハイカは目覚めの変化も現れてるのに、秘石の力なんて必要あるの? 「エナみたいな出来損ない一匹で行かせられるほど、龍の谷は楽な場所じゃないからな。ついて行ってやるよ」 ハイカが優しいなんてヘンな感じだけど、秘石の力が手に入って目覚めを迎えられるなら、なんだっていいや。 隊長さんのパートナーになれる可能性が、1%でもあるならボクはそれに賭ける。 ボクはハイカと一緒にルーテル山へと駈けていった。 ***** 家を出てから二刻くらい駈けてルーテル山の麓に着く。そこからさらに一刻ほど駈けていたら薄暗い谷が見えて来た。 まだお陽さまは真上にあるのに、どうしてこんなに暗いんだろう。 「あの谷をずっと登った先に秘石は祠られているらしい」 「きゅう…(秘石を見つけたらどうするの?)」 「秘石の中には強い精霊が封印されていて、その精霊を解放させたら力を分けてくれるって話だ」 「きゅ?(精霊が閉じ込められているってこと?)」 「ああ、なんでも昔力が強過ぎてコントロールが利かなくなったから、力を抑えることが出来るまで自分から秘石に封印されたんだってさ」 「きゅきゅっ!(そんな強い精霊を解放しちゃって大丈夫なの?)」 「封印されたのはもう何百年も昔の話さ。だから精霊もきっと力の加減の仕方だって分かってるさ」 「きゅきゅ〜っ(でもそんな力のある精霊を解放しちゃってホントに大丈夫なの?)」 「自分から封印されるような精霊なんだからいいヤツだろ?きっと頼めば少しくらい力を分けてくれるさ。怖がってたって力は手に入らないんだ!エナ、お前だって目覚めを迎えたいんだろう?」 そうだ目覚めるための力が欲しいからここまで来たんだ。チャンスがここにあるのなら絶対に手に入れたい。 隊長さんと一緒にいるためなら、なんだってすると決めたじゃないか。 「きゅうっ!(わかったやるよ。秘石を解放させる!)」 谷まで下りて曲がりくねった川沿いをずっと登って歩く。川辺りは尖った大きな石がゴロゴロあって足場が悪かった。 「この石が龍の鱗みたいで曲がりくねった川が体みたいだから龍の谷って言うらしいぜ」 「きゅ〜(へえハイカって物知りなんだね、見直しちゃった)」 「へんっ!オレだって立派な神獣になるために頑張ってるんだから、このくらい当り前だ」 「きゅう〜(ハイカの里親さんって文官さんだったよね?だから物知りなのかな)」 「違うさ、文官だからじゃなくてセレンだからだよ!セレンは凄いんだぜ、下級市民の出なのにトップで文官の試験に合格したし、仕事だって大変なのにオレの世話だけじゃなく兄弟達の面倒も全部見てさ。でもいっつも優しくて愚痴ひとつこぼさない本当にいいヤツなんだっ」 びっくりした…ハイカのこんなに嬉しそうな顔初めて見た。意地悪ばっかり言うハイカは苦手だったけど、セレンさんって人はきっとボクにとってのシーグさんや隊長さんみたいな人なんだろうな。 「きゅう〜(セレンさんって立派な人だね)」 「そうさっ、だからオレはセレンにはうんと出世してもっと立派になって欲しいんだ。その為ならオレに出来ることはなんだってしてやりたい」 「きゅ…(ハイカ…)」 「…オレの毛並み、お前が言ったようにオレンジだろ?オレは真紅の毛並みの炎の神獣になりたかった…いやならなきゃいけないんだ」 「きゅ?(どうして?)」 「さっき言ったろ?セレンは下級市民の出だって。いくらセレンが優秀でも身分が低いと頑張っても出世は難しい…でもオレが優秀な神獣に成長したらセレンの評価だって上がる、今よりいい暮らしをチビ達にだってさせてやれる」 「きゅ…(そうなんだ…)」 「…なのにオレの毛並みはこんな色で…これじゃセレンの役に立ってやれない…」 そうか…。ハイカはセレンさんとチビちゃん達のために秘石の力が欲しいんだ。 ボクはボクのために秘石の力が欲しかったのに、ハイカは自分の好きな人の幸せのために力が欲しいんだ。 ホントに見直しちゃったよハイカのこと。 「…なんだよ?」 「きゅ?(なんでもないよ、秘石の力を貰って早くおうちに帰ろう?)」 「ああ!急ごうぜ」

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