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僕は君だけのアイドル

僕には秘密がふたつある ひとつはいま人気上昇中の若手アイドル俳優ナツミが僕の一つ下の弟だと言うこと もうひとつは片思いの相手がクラスメイトの男の子だと言うこと どちらも人には決して言えない秘密だーーー  僕、夏見圭太(なつみけいた)はどこにでもいる平凡な高校生。顔も成績も運動もごくごく普通。なんの特徴もない、あんな奴いたっけ?って感じでクラスの中で埋没してるタイプ。そんな僕の好きな彼は、僕とは正反対でいつもクラスの中心にいる人気者。  早川康広(はやかわやすひろ)くんは180cmを越える長身に、爽やかな笑顔が印象的なイケメンで陸上部のホープ。  そんな彼と僕は同じ美化委員で、週に一度の清掃活動が唯一の接点。  この清掃活動がある為なり手のなかった美化委員に、風邪で休んでいた僕が押し付けられる形で決まったんだけど、僕にとっては凄くラッキーな出来事だった。 今日はその週に一度の放課後の清掃活動の日。裏庭のごみ拾いを二人でしている。  早川くんは話上手で話題も豊富だ。僕は早川くんと二人きりの状況に緊張して、彼の話に相槌をうつのが精一杯だけど、こうして彼の話を聞いてるだけで凄く楽しくて幸せ。  そんな早川くんが、最近ハマっているドラマの話をしてきた。それは若手のイケメン俳優が、大勢出演してる今話題のドラマで、あまりドラマを観ない僕も観ている。  なぜなら、弟の佑太(ゆうた)が出ているから。  佑太は主人公の弟役で、逆境の中でも挫けずひた向きに兄を支える一生懸命さが受けて、今イチオシ若手俳優の一人なんて言われてたりする。  実際の佑太は兄を兄とも思わない、尊大でそのくせ甘えたな役柄とは似ても似つかない奴なのに…。  だからこそ演技が上手いって事になるんだよなぁ。なんかフクザツだけど…。 「それでさ、主役の沖雅斗もいいけど弟役のナツミがいいよな。健気でさぁ、俺あーゆーのたまんないんだよね」  今まさに考えていた佑太の話が出て、どぎまぎしてしまう。 「男だけどナツミって可愛いよな〜。俺、あんな弟いたらすっげー可愛がっちゃう」 「…へ、へぇ。確かに可愛いよね」 「だよな〜、あの一生懸命なトコが守ってやりたくなるよ」 「…そうだね」  点けっ放しのテレビが、昨夜録画した佑太のドラマを映してる。ドラマは佑太が兄のために、進学を諦めようと悩むシーンだ。でも内容がちっとも入ってこない…。  早川くんは佑太みたいな子がタイプなんだなぁ。  僕と違って小さい頃から、女の子と間違えられるほど可愛いかった佑太。よく兄弟とは思えないって言われた。中学に上がると、背も伸びて男らしくなってきて、まだあどけなさは残るけど、すっかりイケメンになった佑太。 「僕も佑太みたいだったら告白くらい出来たかなあ…」 「告白って、兄貴好きなヤツいるの?」  急に声を掛けられて驚く。 「佑太!入るときはノックしてっていつも言ってるでしょ」 「ちゃんとしたさ。兄貴が気付かなかったんじゃん、なに?そんなに俺の演技に見惚れてたの?」  さすがに全然観てなかったとは言えないから、誤魔化すように話をかえる。 「今日は仕事は?」 「なんか主役の沖さんが具合悪いらしくて、今日の撮り中止になったって連絡あった。撮影押してんのにさぁ、まったく…。プロ意識がないよね」  …まだ中学生の癖に先輩に対してこの尊大な態度!早川くんに見せてやりたいよ。 「沖さんも好きで具合悪くしたんじゃないでしょ。迷惑かけて辛いのは本人なんだし、その言い種は酷くない?」 「自己管理がなってないからこうなるんだよ。圭太はホント甘いんだから」 「僕は一介の高校生だからそこまで厳しい目で見る必要なんてないもん」 「わかってるじゃん。そう学生じゃないんだからちゃんとプロ意識を持てって話だよな〜」  …この俺様っぷり、ファンが知ったらみんな離れて行くぞ。 「…で、兄貴の好きなヤツってどんなの?」 「はあっ!?」  …やばっ、さっきの独り言聞かれてたの? 「…い、いないよ?好きな人なんて」 「兄貴が俺に嘘を吐くなんて百万年早いぜ」  何ソレ!どっちが兄だと思ってんのさ!!迫ってくる佑太をじわじわと躱していると、下から母さんの声がした。 「圭太〜、佑太〜、ご飯よ〜」  助かった! 「ほっ、ほら母さんが呼んでるよ。早く行かないとまた怒られちゃうよ」  急いで佑太の横をすり抜けて下に降りる。もうっ、僕の好きな人なんてどうして気にするのさ。  早川くんの事は佑太にだって言えない。そう…、誰にも言えはしない。早川くんにだって言う事は出来ないんだ。  僕なんかに告白されたって、きっと気持ち悪がられて避けられるだけだ。週に一回、一緒に委員の仕事を出来るだけで僕は幸せだから。  だからこれ以上欲張りな事は望まないでいよう。  早川くんが昨日あった競技会で大会新記録を出した。人気者の早川くんはあちこちから祝福の声を掛けられて大変そうだ。  僕もおめでとうって言いたいけど、早川くんの周りはいつも人がいっぱいだからちょっと近寄るのが躊躇われる。早川くんの友達は派手な人が多くて、地味代表みたいな僕は気後れしちゃうんだよね…。  もともとイケメンな早川くんは注目される存在だったけど、この事でさらに周りが放っておかなくなった。ついに学校一の美少女と評判の戸田真奈美(とだまなみ)さんまで、早川くんに告白したと言う噂でクラス中が持ちきりだ。  告白するつもりなんてないのに、ショックを受けてる僕。 「え〜っ!早川、戸田真奈美の告白断ったのか!?」 「うわっ!勿体ねえ〜」 「戸田でも駄目だなんてどんだけ理想が高いんだよ、早川」  早川くん、告白断ったんだ…。僕に望みがあるわけじゃないのにやっぱり嬉しい。 「早川ってさあ〜、こんだけモテるのに彼女作らないなんて、実は好きなヤツとかいるんじゃないの?」  早川くんの好きな人…?  その質問にクラス中の女子だけじゃなく、男子さえも固唾を飲んで早川くんの返事を待っている。 「どうなんだよ〜、早川」 「好きな人って言うか、気になってる子はいるけど」 「ええ〜!マジでっ」 「誰?誰!?この学校のヤツ?どんな感じの子だ?教えろよ〜」 「う〜ん、可愛いくて一生懸命な感じ…かな」  結局、早川くんは好きな人の事をそれ以上は話さなかったから、今度は早川くんの想い人が誰なのかって噂で持ちきりになった。 色々な憶測が飛び交うなか早川くんが、想い人の名を口にしたという新たな噂が囁かれる。  早川くんの好きな人…。僕の手の届く人じゃないのは百も承知してるけど、早川くんが誰かと付き合うのを想像すると胸が痛む。そんな事を考えてボンヤリしていたら、教室が騒ついているのに気付いた。 「ねえ、ナツミってコ呼んでくれない?」  そう言って教室に姿を見せたのは、早川くんに告白したと噂のあった戸田さんだった。 「ナツミ?誰それ」 「そんなヤツいたか?」  ざわつく周囲を余所に僕は戸惑っていた。 「ナツミ…ああ、夏見か?お〜い夏見お客さんだぞ」  戸田さんと話していた人が僕の事だと思い至ったのか僕を呼ぶ。 「…え、あなたがナツミ?早川くんの好きな人って噂のコって、まさかあなたなの?」  戸田さんの言葉にクラス中が騒然となった。 「ええっ!?早川が好きなヤツが夏見〜?」 「いやいや、ないって!」 「男だってのはまだしも、こんな地味なのはないっしょ?」  クラスメイトが一斉に僕を見て否定し始めた。 「…あ、あれじゃね?ホラ今、早川がハマっているドラマに出てくるアイドルの俳優」 「ああ!あのナツミね!そう言えば、早川ファンだって言ってたな〜」 「なあんだ、好きなヤツってアイドルの事かよ」 「だよねえ、こんな地味な夏見なんて有り得ないって」 「やだ、勘違いしてごめんなさい」  クラスメイトも戸田さんも合点がいったとばかりに笑い合っている。そのなかで僕は、泣き出したい気持ちを抑えるのに必死だった…。  僕が早川くんと付き合えるなんて思ってない。でも、あんな風に言われてまるで早川くんを想っていることさえも否定された気がした。  ナツミが僕じゃなくて安心したの?学校のアイドルの早川くんには、ナツミみたいなアイドルじゃなきゃ隣にいることは許されないの?  学校から帰るなりベッドに潜って、ずっと泣いている僕を心配する佑太の声が、部屋の外から聞こえる。けど、今は佑太に会いたくなかった。佑太に八つ当たりしてしまいそうだ。  同じ兄弟なのにアイドルのナツミである佑太と、周りから笑われるだけの地味な僕。そのどうしようもない現実をちゃんと受け入れられるまで、泣かせて欲しかった。  結局、泣き明かしたせいで腫れぼったい目を伊達眼鏡で隠し学校へ行く。僕の目が腫れていたって、気にする人なんていないだろうけど…。  クラスでは昨日の事なんてなかったみたいに、いつも通り早川くんのグループが中心になって明るい笑い声を上げている。いつもならその様子をそっと見て、早川くんの笑顔にときめいていたけど、今日はとてもそんな気にはなれそうもない。  それなのに今日は週に一度の清掃活動の日だ。昨日の事を早川くんは知ってるのかな…。知っていたとしても早川くんにとっては、アイドルのナツミと地味な僕が間違えられただけの笑い話でしかないよね。  あんなに楽しみにしていた清掃活動を、憂鬱に思う日がくるなんて思いもしなかった。  とうとう放課後になってしまった。  早川くんに変に思われないようにしなくちゃ。気まずいのは僕の方だけなんだし。今日の担当は校門横の清掃だったから、そんなに時間はかからないはずだし早く終わらせよう。  清掃用具を持って早川くんと校門の方へ歩いて行く。擦れ違う人が僕達を見てヒソヒソと何かを話しているのが、あちこちで見て取れた。  まさか…昨日の事じゃないよね…。不安になっている僕の耳に周りの人の話し声が聞こえてきた。 「え〜、マジであんな地味なのが早川くんの彼氏なの?」 「ありえないよね〜、一体どうやって取り入ったんだろ」 「だから、それは誤解だって。ホラ、俳優のナツミっているじゃん。早川くんはそのナツミのファンで、あの地味な人はただ同じ名前だったから、勘違いされちゃったらしいよ〜」 「なぁんだ、安心した〜。だよねぇ、いくらなんでもアレはないよね〜」  僕達を見てる人達みんなから、似たような事を話す声が聞こえてくる。居たたまれなくて僕はその場を離れようと駆け出した。 「夏見!?」  いきなり走りだした僕を早川くんが追いかけてくる。記録保持者の早川くんにかなうはずもなく、あっという間に捕まってしまった。 「突然どうしたんだ?夏見…って、オイ泣いてるのか?」 「早川くん…、手を離して。こんなところを誰かに見られたら、また変な噂を立てられて早川くんに迷惑をかけちゃう…」 「…何を言ってるんだ?迷惑って…」  俯く僕の周りが騒がしくなった気がして顔を上げる。また周囲の注目を集めてしまった事を不安に思って、周りを見渡すとそこにはここに居るはずのない人の姿があった。 「…え?なんで…」  周囲に集まった人達も気付いたのか、だんだん騒ぎが大きくなっていく。 「ねえっ!あれナツミじゃない?」 「うそ!マジでっ?」 「きゃー!カッコいい」 「やだー!なんでこの学校に?」 「まさかここでドラマのロケがあったりとか!?」  突然現れたナツミに、周りはちょっとしたパニック状態だ。そして僕も違う意味でパニックになっている。頼むから余計な事は言わないでよ佑太!!  幾重にも出来た人垣の真ん中で、ゆっくりと佑太が口を開いた。 「圭太を泣かせたのはアンタ?」 「…何の事だ?」 「圭太を迎えに来たらいきなり逃げ出してくし、追い付いてみたらまた泣いてるし…。アンタ一体、圭太に何したんだ」 「…いきなり来て、君こそ誰だ?夏見と何か関係があるのか?」 「関係?あるに決まってるだろう、深〜い関係だよ!」 「…ちょっ、佑太!何言ってるの!!」 「圭太は黙ってろ!ここまで来る間に聞こえてきた話からして、昨日圭太が泣いてた原因はコイツじゃねえか!」 「…違うってば!早川くんは何も関係ないし悪くもないんだってば!」 「じゃあ泣いてた理由を言ってみろ!周りの連中が言ってるような事を、コイツが言って圭太を傷付けたんじゃないのか」 「…違うよ。僕が勝手に傷付いてるだけで、早川くんは何もしていない」 憤る佑太にきちんと説明しようとしてると、早川くんが妙な事を言ってきた。 「さっきから何の話なんだ夏見。彼は誰なんだ?」  …あれ?  早川くんってナツミが好きなんだよね?周りの人達も佑太がナツミだって気付いて騒いでいるのに、なんで早川くんは佑太の事がわからないの? 「あんたがファンだって言うナツミ本人だよ!」  佑太の言葉に周りが騒ぎだした。 「きゃー!やっぱりナツミよっ」 「やだ。こんな近くで見れるなんて嬉しい〜っ」 「…ナツミ?あのドラマに出てる、あのナツミが君?」 「…圭太、コイツ目ぇ悪いのか?」  早川くんの視力が悪いって話は聞いた事なかったけど、そうなのかな…? 「あ〜、言われてみれば確かにナツミだ。でも随分と役と性格が違うんだな」 「あたりまえだ!俺は役者なんだからな。それにあの役は圭太をイメージして演じたんだから、違って当然だ」  え…?あの健気な弟役のイメージが僕!? 「あ〜、道理で似てると思った!あんまり夏見にソックリなもんだから、あのドラマにハマっちまったんだよな」 「…え、」  早川くんはいまなんて言った…? 「あの弟って一生懸命なところとか、ひた向きに頑張るところとか夏見みたいでさ。ホント、すっげー可愛いよな〜」  は、…は、早川くんは何を言ってるの…? 「…てめえ、まさか圭太の事狙ってやがるのか」  佑太っ?何、言ってるの!そんな訳あるはずないじゃない…っ 「うん、そうだけど?」  佑太のとんでもない質問に、早川くんはそれがどうしたのって感じで答えた。 「「「えええ〜〜〜っっっ!!!」」」  僕も周りの人達も、早川くんの衝撃発言に叫び声を上げる。 「てめえっ!なに、しれっとほざいてやがるっ」 「何って、俺の素直な気持ちだけど」  …はや…早、川…くん?一体、何を言ってるの…? 「俺は認めねえぞ!」 「なんで俺が夏見を好きなのを、君に認めて貰う必要があるんだ?」 「あるに決まってんだろ!」  …ゆ、佑太?それ以上は言わないで! 「圭太を泣かせるような奴に、俺の大事な兄貴を渡せるかっ!」 「「「えええ〜〜〜っっ!?兄貴〜〜!?」」」 「だから、俺は夏見を泣かせた覚えはないんだけどな」  え?早川くん、僕と佑太が兄弟ってとこはスルーなの…?周りは今の佑太の発言に騒然としまくっているのに…。早川くんって意外とマイペースな人だったんだな…。 「あんたがダチにナツミを好きだとか言ったせいで、圭太の事だと勘違いした周りの奴らが、圭太を貶してやがるのを知らねぇのかよ」 「勘違い?俺はちゃんと夏見が好きだって言ったけど」 「…ちょっと待て、じゃああんたが好きだって言ったのは、俺じゃなくて兄貴の事だったのか?」 「勿論そうだよ。さっきも言っただろう?夏見圭太の事が好きだって」  う、嘘…、早川くんが僕を…好き…? 「でも俺の言った事が原因で、夏見が謂われのない中傷にあったのは確かに俺のせいだな」  早川くんは僕の方を向いて頭を下げる。 「ごめんな。俺がうっかり口を滑らせたばかりに、夏見に嫌な思いをさせて。こんな俺に言う資格ないかも知れないけど、ちゃんと告白したい。俺は夏見圭太が好きだ。良かったら付き合って欲しい」  まるでドラマの中のような出来事がこんな平凡な僕に起きるなんて…。あまりの有り得なさに僕は昨夜の寝不足もあって、返事も出来ずに意識を失ってしまった……。  少しずつ意識が浮上して来た僕の耳に、早川くんと佑太の言い争う声が聞こえてきた。  どうやら僕の部屋みたいだけど、二人が運んでくれたのかな。お礼を言う為に起き上がろうとしたけど、聞こえてきた二人の話に慌て寝た振りをする。 「じゃあ、てめえは入学した時から圭太を狙ってやがったんだな」 「狙ってるなんて聞こえの悪い。一目惚れしただけだよ」  ええっ!?…ひ、一目惚れ!? 「夏見が美化委員を押し付けられたから俺も立候補してさ。健気なもんだろ?」  う…嘘っ!誰もなり手がなかったから、優しい早川くんが仕方なく引き受けたんだとばかり思つていたのに…。まさか僕の為に委員になったなんて信じられない…。 「一緒に当番をするうちになんでも一生懸命にこなす夏見が可愛いくてさ〜。ますます好きになっちまったけど、やっぱ男に告られるなんて驚くだろうなとか、怖じ気づいてたら告るタイミング逃してさ」  早川くんの口から信じられない言葉が次々と語られる。 「君の役に夏見を重ねてドラマ観たりしてたから、佑太くんがナツミだって全然気付かなかったくらい」 「てめえ、身内の前でよくそれだけ惚気られるな…」  はあ〜っ、と大きなため息を佑太が吐いた。 「てめえの言い分はわかったが、圭太がてめえの告白を受け入れると思ってんのか?」 「振られたとしても諦めないから大丈夫」 「しつこい男は嫌われるぜ?」  佑太の言葉に思わず叫んでしまう。 「きっ、嫌いになんてならないっ!」 「圭太?起きてたのか!?」 「…夏見、今の聞いてたの?」 「…う、うん。ごめんなさい…」  盗み聞きしてたのがばれて恥ずかしくなる。 「夏見…、今のは告白の返事だと思っていいのか?」 「…う、うん」 「圭太は嫌いじゃないって言っただけで、好きだとは言ってねえぞ」 「…そうか」  佑太の言葉にしょんぼりする早川くんに、また僕は叫んでしまった。 「…ぼっ、僕も早川くんの事が好きですっ!!」 「ほ、本当か!?夏見」 「…僕もずっと早川くんの事が好きだった…。週に一度の一緒に居れる当番が僕も楽しみだったよ?人気者の早川くんに告白するなんて無理だったし、嫌われたくなかったから自分の気持ちを伝える勇気なんて持てなかった…。…なのに、こんな僕をたくさんの人の前で好きって言ってくれて、ありがとう…早川くん…。僕も早川くんが大好きです…。こんな僕で良かったら宜しくお願いします」 「…や…やったーーっ!!ありがとうっ夏見!」  僕を抱き締めてくれる早川くん。その横で佑太がずっと叫んでたけど、幸せにひたる僕達の耳には何も届かなかった……  早川くんの告白劇とナツミが弟だって事とで、僕は一気に学校の有名人になってしまった。あの告白のあと、気を失った僕を早川くんと佑太のどちらが運ぶかで、散々揉めたらしい。  そんな二人の姿を見ていた人達が好意的な噂を流してくれたみたいで、僕への風当たりも日を追うごとに穏やかなものになってきてる。  そして今日は早川くんとの初めてのデートの日。緊張するけど嬉しくてたまらない僕は、30分も早く待ち合わせ場所に着いてしまったんだけど…。  何故か、待ち合わせ場所には早川くんと佑太の姿があった。 「夏見!こっちこっち」 「圭太、デートなんて許さねえって言っただろうがっ」 「まさかついてくる気じゃないだろうな」 「デートなら俺が連れてってやるから、てめえは帰れっ」 「ふざけんなこの小舅がっ」  喚きあうイケメン二人に、周りは一体何事かと遠巻きに眺めてる。  学校のアイドルの早川くんと、本物のアイドルの佑太が僕をめぐって争うなんて、またドラマのようなシーンが目の前で繰り広げられているのが可笑しくて、思わず笑ってしまう。 「夏見は俺だけのアイドルだから、たとえ本物のアイドルがライバルでも譲れないね」  早川くんは大声でそう佑太に言うと、僕の手をとり走りだす。その繋いだ手を決して離さないようにと、僕はぎゅっと強く握り返したーーー。 End

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