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「とにかく、次またセールスが来たらはっきり断れよ。あいつら一回家に入れたら何回も来るんだからな?」
「う、うん」
充は念を押すようにそう言うと、おどおどと視線を落とす隼人を見つめた。
「隼人もさ、いい加減こっちの生活に慣れろよ。友だちとか作ってみたら?」
「う、う〜ん…」
隼人は曖昧な返事を返す。
自分でもわかっているのだ。
この、引っ込み思案な性格をどうにかしなければならない事は。
でもこの性格はもうしっかりと身に染み付いてしまっているし、そもそも生まれつきの性格なのでそう易々と変えることは難しい。
それよりも、長年寄り添ってきた充には隼人が色んな事を受け入れる時間が人より長くかかってしまう事をわかっていてほしいと思っていた。
幼馴染であり、恋人であり、これまで色んな苦難を乗り越えてきたパートナーとして、充には一番の理解者でいてほしいのだ。
それをうまく伝えることができたらいいのだが、最近は仕事や誰かとの約束で充が家にいる事が少なく、なかなかじっくりと話す機会がなかった。
今日も非番だったが緊急出動要請があり一日家に居なかった。
明日は休日と言っていたので、隼人は今夜こそ胸の内を話そうと決めていたのだ。
「充、あの、その事でちょっと話があるんだけど…」
隼人が話しだそうとすると、突然充のポケットに入っていたスマホがけたたましい着信音を鳴らし始める。
充はスマホを取り出すと「悪い、ちょっと電話」と言って、部屋を出て行ってしまった。
頻繁にかかってくる電話や通知に邪魔されるのもいつもの事だ。
汗まみれの着替えを抱えると、小さくため息を吐く。
「今日も出かけるのかな……」
スマホが鳴ると彼は大抵決まって外に出て行く。
充の性格は明朗快活で、昔から男女問わず人気があった。
彼に友人が増えるのは喜ばしい事だし、充のような男と結婚できた自分は幸運だと思っている。
しかし、こんな風にすれ違ってばかりいるとやはり不安になってしまう。
今まで充が隼人以外に目を向ける事はなかったし、隼人自身、人を疑ったりするのは好きじゃない。
けれどどうしても考えてしまうのだ。
彼が別の誰かに気移りしているのではないか、と。
確信はないし、証拠があるわけではないけれど何となくそう思ってしまうのは付き合いが長いからだろう。
でも、それを問い詰めたり責めたりできないのは率直に自分に魅力がないからだと思う。
もっと自分に自信が持てるくらい魅力的な人間だったら、充だってよそに目を向ける事もないかもしれない。
でも具体的に何をどうすればいいのか、隼人にはちっともわからないのだった。
隼人の予想は見事に的中し「友だちの家に行ってくる」と言って充は出かけて行ってしまった。
結局その日も夫は帰って来ず、食べてもらえなかった料理がますます隼人を悄然とさせるのだった。
午前中に買い物を済ませ、食材を整理していると突然玄関のチャイムが鳴った。
隼人は顔を上げると、眉を顰める。
真昼間のこの時間に訪ねてくるなんて、アレに違いないと思ったからだ。
玄関に向かい、扉についたドアスコープからそっと外を覗くと、そこにはビジネススーツを着こなした男が背筋を伸ばして立っていた。
肩から大きなアタッシュケースを下げている。
どこからどうみても「セールスマン」だ。
どうしよう、また来てしまった。
「今度こそちゃんと断れよ?」
充に言われた事が頭を過る。
そうだ。
いらない、帰れ、二度と来るな、充に言われた通り、はっきりきっぱり断ればいい。
隼人だってやればできるという所を示せば、充もまたこちらを見てくれるかもしれない。
こういう所から少しずつ改善していけばいいんだ。
隼人は決心すると鍵を開けた。
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