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第4話

 あのあと、智也には先に帰る事をメールして待たずに帰った。家に帰るとお袋が張り切って料理を作っていたから俺も手伝う事にした。  …何かやってた方が気が紛れるし。 「てっちゃんが手伝ってくれるなんて珍しい〜」 「智也のお祝いなんだからちょっとは頑張らないとね」 「ふふっ、哲平も少しは大人になってきたじゃない?いい傾向よね。ともくんもこれから大変だし力になってあげなさいよ」  ああもちろん…、と返事をしようとしたけど言われたことが引っ掛かりお袋に問い返す。 「智也が大変ってどういうこと?」 「…ほ、ほらこれからが本戦だから今からが大変よねってことよ〜」  一瞬しまったって顔をしたお袋が誤魔化すみたいに言ったけど俺は食い下がる。 「ちゃんと話してくれよ。智也がどうかしたのかよ」  目を逸らさずに真っ直ぐ見る俺に、お袋は躊躇いながら話し出した。 「…ともくんの所ね、ご両親が離婚なさるの…」 「…え?」 「お父様が親権は取られたそうだけど、お二人共ともくんを引き取らないらしいわ…」 「…なんで…」 「お二人共もう別の相手がいるんですって…、その人達と新しく生活を始めたいからだそうよ…」 「…それって…、智也を捨てるって事…?」  お袋はエプロンの裾をギュッと握り締め、それに言葉を返す事はなかった。  祖父ちゃんの代からの小さな我が家と、立派な注文住宅の智也の家は隣同士だけど生活水準は全然ちがう。智也ん家はおじさんもおばさんも一流企業に勤めていて、忙しい二人は家をあけがちだったから智也は子供の頃から一人で過ごしていた。お袋が智也の面倒を見始めたのはそんな状況を見過ごす事が出来なかったからだ。  最初はお袋が手を出す事にいい顔をしていなかったおばさん達も、お袋に任せておいた方が自分たちが自由に出来ると思い直し、次第に口を出す事もなくなっていった。つまりおじさんもおばさんも智也より自分たちを取ったんだ。  最初、智也は俺ん家で世話になるのを遠慮していた。いくら幼馴染みとして仲良くしていても余所の家である事にかわりはない。 だから俺は智也に甘えまくって、智也がいないと駄目なんだから傍にいろと居場所作りをした。今だってどこか他人行儀な智也を見ると寂しくなって親父もお袋も俺も必要以上に智也にベタ付く。  頭のいい智也だから、そんな俺達の気持ちなんてお見通しだと思うけど…。  でも智也が一人で寂しくしているくらいなら、俺は馬鹿で甘えたなコバンザメって言われようと全然構わなかったんだ。  ミーティングを終えて帰って来た智也を、俺もお袋もいつも通りの顔で迎える。テーブルに所狭しと並んだ料理に歓声をあげる智也。 「どうだ!俺も手伝ったんだぞ」 「ともくんの好きな物ばかり作ったのよ〜。今日の結果をメールしたら、お父さんも残業切り上げて帰って来るって連絡あったから、みんなでお祝いしましょ」 「いっぱい食えよ?本番はこれからなんだからな」 「あれ、俺言ってなかったっけ?」 「なにが?」 「サッカー部の助っ人は地区予選までって約束なんだ」 「はあ〜〜っ!?」 「ええっ、ともくんそれでいいのっ?」 「いや、もともとサッカー部の奴らに、県大会まで行けたら廃部をまぬがれるって泣き付かれたから、手伝ってただけだったんで…」  確かにサッカー部員に懇願されて渋りながら入部したのは知ってたけど、そんな約束があったのか?  西尾先輩は知ってたのかな…。 「いやいや、でもせっかく勝ったんだぞ?お前がいなきゃ本戦進んでも、また一回戦負けになっちゃうじゃん」 「サッカー部の人達は納得してくれてるの?」  思いもしない智也の発言に思わず俺もお袋もまくしたてる。 「悲願の県大会進出も果たせたし、廃部もまぬがれてまたサッカーが出来るって喜んでたし、全員から感謝されたよ?」  じゃあ、本当に退部するつもりなのか…。  あっさりしている智也とは反対に、惜しみまくりの俺とお袋。そうしてるうちに親父が帰って来た。智也を見た途端に抱きつく親父。 「と〜もや〜っ!さすがは俺の息子だなあっ。未来のJリーガーが我が家にいるなんて、俺は嬉しいぞーっ」  いやいや親父、智也はアンタの息子じゃないからっ!親父の血が入ってたらこんな上等な子は出来ないぞ…って、自分で言ってて悲しいな! 「もうアナタったら、ともくんはアナタだけの息子じゃないのよっ!独り占めはだ〜め〜っ」  親父を止めるのかと思ったお袋がちゃっかり自分まで智也に抱きつく。 「ちょっ、おじさんおばさん苦しいですってば」  そう言いながらも智也は、嫌がりもせずに二人に抱きつかれたまま笑っている。そしたらなんだか凄く楽しくなって来て俺も思いっきり智也に抱きついた。  馬鹿な俺と親父とお袋だけど、大好きな智也にはいつも笑っていて欲しいんだ。

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