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第6話

 尚に手当てをしてもらってから家に帰り、お袋にバレないように部屋に籠もった。殴られたせいで身体が熱い。ちょっと熱が出て来たのかもしれない。  ベッドに入りうとうとしていた俺だったが、部屋の外から聞こえて来た話し声に意識が浮上する。どうやら智也とお袋が話してるみたいだ。しばらくしてから部屋のドアが開く気配がした。  ヤバイ、顔見られたら何か聞かれちまうかも。そう思った俺は寝た振りを決め込む事にした。 「哲平、寝てるのか?」  枕元まで来て智也が声を掛ける。  そうそう俺は寝てるの。そのまま帰ってくれ…明日になれば腫れも少しはひいてるだろうから、誤魔化し易くなると思うし。  そう考えながら、布団を被ってやり過ごそうとする俺の気持ちも知らずに智也はベッドに腰掛ける。そして、布団から出ている俺の頭を撫でた。 「…馬鹿だよな、俺の為に」  そう呟くように言ってから俺のこめかみにそっと触れたのは…。智也の…唇?  いま…一体何が起きたんだ…?智也が俺にキス…した…?は…?  自分に何が起きたのか信じられずにいる俺に智也が話し掛けてきた。 「俺の為に殴られるなんて馬鹿な真似するなよ、哲平。俺は自分よりお前が傷付く方がずっと辛い…」 「とも…」  今日の事を知っているような智也の口振りに、寝た振りを決め込んでいたはずの俺は思わず起き上がった。 「ああ、こんなに腫れて…痛くない?」 「あ、いや…これは別に…」 「なあ、哲平。俺は哲平が俺の傍に居てくれる為に、今まで色んな嫌な思いをしていた事を知っている」  俺の頬に大きな手を添え、智也が目を合わせてそう言った。 「俺の意思とは無関係に、俺に近寄ろうとする奴らが哲平をないがしろにした上に、時には暴力まで振るう。俺にとって哲平がどんな存在かも知らずに、俺から哲平を奪おうとするなんて、…許せない」  一体、何を言ってるんだ…智也…? 「なあ、哲平。哲平が俺に甘えなくなったのは、本当は俺から離れたかったからなのか…?」  …え…? 「俺の傍にいるのに疲れた…?」  智也が寂しそうに言う。 「違…う、そうじゃない。ただ…、俺と智也は違い過ぎるから…いずれ俺達は離れて行くしかないって思ったから…  …だから、その日が来た時に智也に、迷惑を掛けないように…準備しておく必要があるって思ったから…だから…」  本音を洩らした俺を、智也はそっと抱き締めてきた。 「どうして俺達が離れ離れになるって思うんだよ?例え哲平が離れようとしたって、俺が哲平を離すと思うか?」  俺を抱き締める智也の腕が強くなる。 「俺に居場所を作ってくれたのは哲平じゃないか…。哲平の隣が俺の生きる場所だ。哲平が離れようとしても、俺は絶対に哲平を離さない」 「…智…也」  俺を抱き締める智也の肩が震えている。俺は下げたままの腕を動かし、智也の背にゆっくりと回した。  俺は智也の為ならなんだって我慢出来た。殴られたって罵られたって構わなかった。  そう、例え智也と離れる事が堪らないほど寂しく辛い事だったとしても。  智也の為になるのなら俺は我慢出来たんだ…。  それなのにそんな事を言われたら、俺はお前から離れてやれなくなっちまう…。 「俺…、智也の隣に…居てもいい…のか?」  背に回した腕に力を込めながら智也と目を合わせた。 「哲平以外に、誰も居て欲しくない」  俺だけを見つめる智也の真っ直ぐな眼差しが、俺を捉える。  ――俺達はどちらからともなく唇を寄せた。  最初は優しく、啄むように触れた智也の唇が、少しずつ噛み付くように激しくなっていく。割り入れられた舌先が、歯列をなぞり俺の舌を絡めとっていく。激しい口付けに息が出来ない。  そのままゆっくりとベッドに押し倒され、服の下から入り込んだ智也の手が脇腹をなぞり、そのまま胸の方へと伸ばされていった。いきなりの事に声を上げようとしたが、智也の舌が容赦なく俺の口腔を責めたてるので、それもかなわない。  ちょっ…、まさかこのままやるつもりか?お袋が家に居るんだぞ!?  智也の指が、胸の突起を優しく触れながら摘み上げる。だんだんと芯を持ちはじめた突起に、むず痒いような気持ち良さが走り抜け、流されてしまいそうになる。  けれども僅かな理性が俺に囁き、必死で智也の胸を叩いて止めるように促すと、それに気付いた智也は不機嫌そうな顔で、俺の上から体をどけた。16年一緒にいたけど、こんなに手の早い奴だったとは…。  俺はあがった息と乱れた服を整えて智也を睨み付けると、智也は不機嫌さを隠そうともせずに言う。 「…なんで、止めるんだよ」 「アホたれ!お袋がいつ部屋に入ってくるかも分からないのに、落ち着いて出来るかっ!」 「つまり、おばさんに見つかるのが心配な訳で、俺とやるのが嫌な訳じゃないんだな?」  そう、智也に改めて聞かれて返事に詰まる俺。や、やるって…、口に出されるとリアル過ぎてたじろぐ。 「…って言うか、ちょっと展開が早過ぎないか?」  だって、さっき気持ちを確かめ合ったばっかだぞ?俺たち。 「ふざけんなっ、俺が何年我慢していたと思ってるっ!」 「…へ?」  いきなり怒鳴りつけてきた智也の迫力に、思わず後退ってしまった。 「俺のオカズは小6の時から哲平、お前だ」  だーーっ!?何さらっとトンデモ告白してんだお前!? 「哲平が、俺の為に甘えて来てたのを良いことに、それからずっと、でろでろに甘やかして少しずつ哲平が俺に依存するように仕向けて来たんだぞ?なのに、哲平が妙なとこで男前なせいで、なかなか計画どおりにいかなかったけどよ…」  不貞腐れながらまた意外な事を話してくる智也。 「そうやって、俺に依存させて哲平が俺なしじゃ生きていけないようになったら、哲平は俺から離れられなくなるだろう?」  じゃあ智也の父性愛と取り違えそうな甘やかしは、責任感からじゃなくそんな計画があったからなのか…? 「サッカーは好きだけど、もしプロ選手になって有名になりでもしたら、哲平とゆっくり会うことも出来なくなるかも知れないだろ?そんなの絶対嫌だからスカウトも蹴ったし。サラリーマンになって、出世の為に結婚して俺んとこの親みたいになるなんて死んでもごめんだし」  おいおい…。 「だから俺は起業してうんと稼いで、哲平には苦労は絶対させない。だから安心して嫁に来い」 「…智也、お前の脳内プランは一体どこまで出来てんだ…」  次々に語られる智也のとんでもない告白に、返す言葉が見つけられずに脱力する俺に、智也は迷いもなくこう答えた。 「勿論、同じ墓に入るまでに決まってるだろ?」  …正気か!智也…っ。 「…因みにそれはいつ頃から考えてたプランだ…?」  …恐る恐る聞く俺。 「え〜と、確か小3くらいからだったかな」  眩暈がしてきた…っ!!

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