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第7話
あの告白劇から二ヶ月がたち、俺と智也は今までどおりに戻った。
…と言う訳にはいかなかった。
あれから智也は隙あらば俺に手を出して来るようになっていて、俺はその都度何だかんだと理由をつけて逃げている。
だって正直怖いんだよっ!
あの時は雰囲気に流されちまったけど、俺と智也がそういうコトになるとしたら俺が、その…智也に抱かれる方だよな。つまり智也のピーを…、俺の……。ああああああ………っっ!無理っ!無理むり…っ!
「てっちゃん、そっちは終わったの?」
「うわあああっ!」
突然掛けられた声に驚いて叫んでしまった。
「もうっ、何そんなに驚いてるのよ〜」
「あ…、ごめんお袋」
「掃除は終わった?そろそろ業者さんが、荷物運んで見えるわよ」
「ああOK、終わってるよ」
今日は智也が我が家に引っ越して来る日だ。
智也んちの両親は離婚して二人共家を出て行った。残された家に智也一人を住まわせたくなかった俺と親父とお袋は、智也にうちに引っ越して来るように説得しまくった。
うちは智也ん家ほどでかくないけど、祖父ちゃんが使ってた部屋が空いてるし、これで智也は晴れて俺んちの一員になる訳だから俺も親父達も大喜びしてる。
ただ…、やっぱり智也にとってはあんな人達でも血の繋がった両親なんだし。智也の心境を考えると、手放しで喜んでいいのかどうか複雑ではある。
無事に引っ越しも終わりささやかなお祝いの宴も済み、今は智也の部屋になった祖父ちゃんの部屋で寛いでいる。
智也と二人になって、俺はどうしても気になっていた事を聞いてみた。
「…なあ、智也。今さらだけど、本当に俺んちに来て良かったのか…?」
「なんでそんな事を聞くんだ?」
「いや…、俺達は智也がうちに来てくれて嬉しいけど、何だかんだ言っても隣は智也にとっては自分ん家な訳だしさ…。やっぱり無理させちゃったんじゃないかって気がしてさ…」
上手く言えずにいる俺に智也が問い掛けてきた。
「なあ、哲平。家って言うのは、二種類あるって知ってるか?」
「二種類?」
何を急に言い出したんだ?
「家ってのは住居って意味と家族って意味、二通りがあるだろ?俺んちはただの雨風を凌ぐ為の建造物で、この家は俺を迎えてくれる人がいる温かい場所だ」
「智也…」
「俺んちは、もうずっと前から…いや、多分初めから家族じゃなかったんだよ」
智也がどこか寂しそうに見えるのが俺の気のせいならいいのに…。
「親父達にとってあの家は形だけのハリボテみたいなものだったんだろうな。会社での立場や世間体の為に結婚して家を建てて…、俺はそこに置かれた家具と同じ」
智也は淡々と話し続ける。
「社会的地位や体面で形成される家族の形もあるかも知れないけど、俺はそんなものいらない。家族ってのはさ、哲平んちみたいなのを言うんだよ」
そう言って俺の方を向いて微笑む智也。
「いつも笑いあって、一緒に食事が出来る。俺は、そんな家族を持ちたい…」
「そうか…」
穏やかな智也の笑みに俺も微笑んだ。
「そう、だから哲平はずっと俺と居てね?」
「え…?」
「俺にとっての家族は、哲平とおじさんとおばさんだよ。ガキん頃からずっとそう思ってた。…だから、親父達が俺を要らなくても全然平気なんだ」
「…そんなっ、悲しい事言うなよ……」
俺が涙が出そうになる、泣きたいのは智也のはずなのに…。
「強がって言ってるんじゃない…。本当に親父達が俺に興味がないように、俺も親父達に興味がないんだ。哲平からみたら悲しく見える事かも知れないけど…」
智也はそう言って俺をそっと抱き寄せた…。
「俺にとってかけがえのない大切な人は哲平、お前だ…。大事な人はちゃんと俺の傍にいる。だから、俺は悲しくなんてこれっぽっちもないんだよ」
「とも…や…」
「だから、これからの人生を俺と一緒に生きてくれないか?」
そんなまるでプロポーズみたいなセリフを言ってくるなんて、狡いよ智也。
「俺でいいのか…?」
「さっきの言葉聞いてなかった?俺は哲平しかいらない。哲平さえいてくれたら、俺は一生幸せでいられる」
…俺もお前がいてくれるのなら、きっと一生幸せだ…。
これからどんな事があったって、お前から離れてやんねえから覚悟しろよ、智也。
「ん…、ふうっ」
智也の舌が俺の口腔を嬲るだんだん身体が熱くなってくる。
「哲平…哲平を抱きたい。お願い、抱かせて?」
俺を抱き締めたまま、懇願するように智也が言う。祖父ちゃんの部屋はお袋達の寝室とは離れているけど、家でするのはやっぱりマズいよなあ…。でもこのままってのもお互い蛇の生殺しだし…。
俺が返事に詰まっている間に智也の手が俺のパジャマのボタンを全部外していた。
「…ちょっ、智也!?」
「しーっ、大声を出すとおばさん達に気付かれるぜ?」
「…俺はまだしていいとは言ってねえ…んっ、んんっ」
俺の抗議の言葉を飲み込むように激しく口付けてくる。
…ああ、もういっか…。
俺も智也のものになりたい…智也に抱いて欲しい。
二人で縺れ合いながらベッドまでたどり着き、口付けを交しながら俺も智也の服に手を掛けた。その時―、
「てっちゃん、ともくん。さっき言い忘れてたんだけどね〜」
部屋の扉が勢いよく開かれお袋が顔を見せた。
…固まる俺と智也…。
目を見開いて俺達を見つめるお袋…。
一言も発せずにいる俺達にお袋は衝撃の発言をした。
「あら〜っ、やったわね!哲平!!」
…は……?
「やだ〜、ともくんウチの馬鹿息子でいいの〜?でもこれで正真正銘ともくんがウチの息子になるのねえっ。おばさん嬉しいわあっ!そうだわ、お父さんにも報告しなくちゃ!あっ、邪魔しちゃってごめんね〜。どうぞごゆっくり〜、続けて続けてっ」
…ご、ごゆっくりって…、でっ、出来るかああ…っ!!
「…俺、おばさん達の事を甘く見ていたわ…」
「いや…、俺も同感だ」
嵐のようにお袋が去った後、残された智也と俺は呆然とする以外なかった…。
結局、俺達は両親公認の仲になった。翌日の食卓に赤飯が出された時はちゃぶ台返しをしてやろうかと本気で思った。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、本当に馬鹿だったんだなあ…俺の親。でも赤飯食べながら、智也も親父もお袋もみんな幸せそうに笑っていたからこれでいいのかもって思えた。
孫の顔を見せてやれないのを詫びたら、俺と智也が幸せなのが一番大事な事なんだから気にするなってあっさり言われた。
隣の智也ん家は借家になるみたいだ。あの家は生前贈与って事でいずれ智也の物になるらしいので、将来俺達の新居にしたらいいとか親父達が言っている。
ただの幼なじみだった俺達がいつの間にか将来を誓い合う仲になるだなんて、今でも時々夢なんじゃないかって思ったりする。
そして俺は、今日も智也にお布団さまとのラブラブランデブーを邪魔されて文句を言いながら起き上がる。
智也と俺の攻防戦は前と変わらず続いているが、ただ前とは違うのはさっさと起きないと智也が俺にイタズラを仕掛けてくるってトコだ。寝起きの無防備な俺の息子が喰われちまわないように、智也が起こしに来たらすぐに目が覚めるようになったのは、進歩…なのかな…?
それから、智也はサッカー部を続けることになった。サッカーが好きなのは変わりないのだから続けるように智也に話したんだ。どうやら智也が部活に消極的だったのは俺と過ごす時間が減るのが嫌だったから…らしい。
改めて聞くと何とも恥ずかしいが嬉しくもある。だから俺もサッカー部に入部する事にした。…とは言っても運動オンチな俺なので、マネージャーとしてだけど。
そう言えば、西尾先輩はマネージャーを辞めたらしい。あの様子じゃ簡単には引き下がらないと思っていたのに意外とあっさりしていて、覚悟をしていた分なんだか拍子抜けしちまった。智也が自分に靡かないと思って諦めたのかね?
まあ、なんにしても気懸かりが無くなったのは喜ばしい事だよな。
そして今日も智也と朝練に向かう為に一緒に家を出る俺達に、いつものようにお袋が二人分の弁当を手渡して笑いながら手を振って見送ってくれる。
俺達は幼馴染みから恋人同士になって、ふたりで積み重ねて来た幼馴染みとしての時間の上に、これからは恋人としての時間が積み重ねられていく。
それにどんな違いがあるのかまだ俺には分からないけれど、智也が大事でいつも笑っていて欲しいと思う気持ちは恋人でも幼馴染みでも同じだから、これからもふたりで過ごしていく時間が変わらないものならいいなと思う。
俺の幼馴染みは、高一にして180センチ超えの長身にサッカーで鍛えたバランスの取れた身体、たいして勉強もしないのに常に学年上位の成績をキープし、さらに顔もイケメンで、お前はどこのマンガの主人公だよ!ってツッコミを入れたくなるくらいの出来過ぎヤロー。
だけど、本当は寂しがり屋で遠慮しいで有望な将来さえ俺の為に簡単に手放しちゃうような可愛いやつで。
だから俺はこの幼馴染みの為なら、これからもどんな事だってしてやりたいって、やっぱり思うんだ――。
End
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