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第1話

僕には、かれこれ15年くらいメールのみの関係を続けている友人が居る。 いわゆるメル友というやつだ。 今はSNSが普及している。 そのうち、メル友という言葉はもちろん、メール自体が廃れていく時代が来るかもしれない。 ペンフレンドという言葉が廃れていったのと同じように… ◇ 「…あ~、…久しぶり~…」 どうやってここまで帰ってきたのか分からない。 気付けば僕は、木造二階建ての古びたアパートの鉄階段の手摺に掴まっていた。 カンッ…カンッ…カンッ… 手摺にしがみつくように、階段を上っていく足元が弱々しい音をたてる。 なにかに身体を預けていないと倒れてしまいそうな程フラフラだ。 ようやく階段を上りきり、すぐ目の前の扉。 僕は今、数日ぶりに我が家の前に居る。 久しぶりすぎて涙が出そうだ。 コートのポケットからキーホルダーもなにも付いていない、鍵を取り出して鍵穴に差し込もうとした。 「…あ、あれ…」 何度やっても鍵穴に鍵が入らない。 手が震えている。 あまり怒りを表に出したりはしない方だけれど、流石に今日はちょっと無理だ… 僕の中でなにかが振り切れて、鍵を思いっきり地面に投げ捨てた。 鍵はバウンドはしたけれど、当然転がる訳もなく地面に吸い付くかのように動きを止めた。 「…はぁ…」 一つ小さく溜息を吐く。 地面に落ちた鍵を見て切ない気分になった。 視界が滲む。 「…もう嫌だ…」 鍵を拾おうとしゃがみ込んだ。 心身共に疲労困憊… 人二人が並んで歩くのが困難な程狭い廊下。 落下防止の柵を見上げた。 このまま柵を飛び越えてしまいたい気分になったけれど、二階から落ちたくらいじゃ、せいぜい骨折といったところだろう。 きっと、死ねはしない。 そんな事を考えてしまうくらい弱っている。 疲労が蓄積して震えた指では、鍵を拾う事も難しい。 ようやく辿り着いた我が家に足を踏み入れる事がこんなにも難しい事なのかと問いたくなる。

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