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第2話
なんとか鍵を拾い、グシグシと目を擦って焦点を合わせると、鍵を鍵穴に差し込む。
僕はようやく我が家に足を踏み入れる事が出来た。
扉が閉まれば、室内は真っ暗闇だ。
辛うじて部屋の最奥にカーテンの隙間から光が見える。
今は何時なんだろう…
時間はおろか、日にちの感覚もない。
納期は10月21日で、なんとかギリギリで間に合わせたから、多分今日は10月20日…
外は暗かったから、多分夜…
奥に見える微かな光は外灯という事になる。
壁伝いにスイッチを探して、玄関の電気を付けた。
「…ただいま、我が家~…」
靴を脱ぎ捨てて、部屋に入る。
6畳の和室に、一口コンロ付きの小さなキッチン。
狭いユニットバス。
家賃5万5千円。
これが僕の住処だ。
住処といっても、殆ど居ないけれど…
休日出勤は当たり前、納期が近くなると寝にさえ帰ってこられない。
僕は、下請け外注会社でプログラマーをしている。
主に、スマートフォン用ゲームやパソコン用のブラウザゲームなんかを作成している。
疲労困憊の理由は、言うまでもなくデスマーチにある。
エンジニアなら、出来れば避けて通りたいものだけれど、僕の職場ではデスマーチの回避は困難だ。
トップが職場の現状を理解していないのだから、無理もない。
大手にヘラヘラ媚を売り、無理な案件を「できますできます、任せてください」と次から次に受けてくる。
挙げ句には、僕らに丸投げして無茶な労働を強いる。
会社自体小さな会社な訳で、仕事を貰えるだけマシなのかもしれないけれど、誰が見ても明らかに無理な予算で受けるのは止めてほしいというのが本音だ。
プロジェクト開始の時点でデスマーチ確定なんて事も当たり前にある。
そんな事が当たり前にあったらいけないのだけれど…
「…駄目だぁ~…眠い…」
久しぶりにお風呂にも入りたいのに…
会社に何日こもっていたかは忘れたけれど、その間お風呂にも入っていない。
ボディシートとボディスプレーは必須アイテムだ。
服だってそう。
下着やシャツは何枚か会社に持ち込んでいるけれど、足りなくなれば裏っ返してリバーシブルなんて時もある。
まぁ、それは先輩エンジニア直伝の最終手段だけれど…
食事は良くておにぎり、悪くてカロリー◯イト。
気付くとエナジードリンクの缶が机に積まれていく。
エナジードリンクの缶の数は勲章だとすら思えてくる。
「…あぁ…まともなご飯だって食べたいのに…」
駄目だ…
身体がベッドに吸い寄せられていく。
今ベッドに向かったら確実に眠ってしまう。
そう思いながらも、僕は眠いという欲求に勝てなかった。
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