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第20話 ニュース
――そなたの命に代えても、あの子を守り抜け……。
嗄れた声でありながら、逆らいようのない威厳に満ち満ちた王の声。そして、重々しく肩に置かれた大きな手に、身が引き締まる思いがした。俺は垂れていた頭を上げ、胸に手すっと手を当てる。そして、大きく頷いた。
「エルフォリアの未来のために」
王は一つ満足げに頷くと、疲れたように眉間を押し、倒れこむように玉座に腰を落とされた。日に日に王の病状が悪化しているのは、目に見えて明らかであった。血を分けた弟の裏切り、虎視眈々とエルフォリアを狙う敵国の脅威、それらが王の心身を苛んでいるのだ。
――もうわしは、長くは持たん。そろそろ、潮時か……。
王は、王宮の窓から暮れ泥む空を見つめながら、疲れたようにそう言った。彫りの深い目元には暗い影がさし、未来を憂う物悲しさが漂っていた。力を失いつつある王に対し、言葉だけの励ましなど、もう届きようもない。俺は玉座に座す王の履物のつま先を見つめながら、硬い声でこう言った。
「覚悟は、とうにできております」
――すまんな、リオ。
王の眼差しは、穏やかだった。
+ +
翌朝、俺は心地よい疲れを感じながら、ぬくぬくとした布団の中で目を覚ました。
腕の中には、ふわふわとした金髪と、あたたかな体温。背後からティルナータを抱きしめて眠っていたらしい。
少しもぞついてみると、ティルナータはむずがゆそうな声を漏らしてうつ伏せになった。肩甲骨や背骨のラインが芸術品のように美しくて、ついついうっとり見惚れてしまう。長い髪をかきあげ、俺はいたずらをするようにティルナータのうなじに唇を押し付け、指先でなだらかなラインを描く背筋をなぞり、ちゅっと耳の裏にキスをする。そんないたずらに、ティルナータは「んー……」と微かに呻くが、まだ目をさます様子はない。無理もないだろうな、と思う。あのあとも、俺は散々ティルナータの身体を……。
バスルームで、ベッドで、床で……。俺たちは何度でもキスをして、何度となくお互いの欲望を高め合い、そしてそれを貪りあった。
ティルナータがあまりに可愛い反応をしてくれるから、俺はしつこくしつこく乳首攻めをしてティルナータをいじめた。ペニスには触れず、ひたすらに乳首を舐めまわし、唇で啄ばんでは軽く噛み付いて……だんだんと赤く熟れてくるそこを指で捏ね、「ぁん、ぁんっ……!」と可愛く悲鳴をあげて腰をよじるティルナータを堪能した。
イきたくてもイけなくて、ティルナータはついに泣いて怒ってしまったのだが、そんな新鮮な反応もすごく可愛くて、俺はお詫びとばかりにティルナータにフェラチオをして、迸る彼の性液を全て飲み干してみせた。
そんな俺を「変態め!」と罵りはするものの、ティルナータはすっかり性の快楽の虜になっているように見え、俺のそういう行為を拒みはしなかった。
俺は、自分のベッドテクなんて大したものじゃないと思っていたけれど、ティルナータは俺に何をされても可愛くよがって、「気持ちがいい」言ってくれた。そして時には「しつこい!」と怒ってみたり、「腹が減った」と文句を言ってみたり……そういううやりとりも、ものすごく幸せだった。
まだペニスを挿入するところまではしていないが、ティルナータは指を挿れることを許してくれるようになっていた。夜寝る前にイチャイチャしていた時、ティルナータは俺の指を二本も受け入れてくれて、前立腺を探る俺の指の動きにびくびくと身体を震わせて「あ、ァ……なんか、そこ……へんだ……!」と、怯えたように俺を見上げ、それ以上先へ行くことを拒んだりもした。
正直、もうそのまま、ペニスを挿れてしまいたかった。
ゴムもローションもある。俺には経験がないわけじゃない。
長い脚を開いて恥部を晒し、俺の指を咥えこんでいるティルナータの姿は、途方もなくエロくて、頭のネジがふっとびそうになった。ローションまみれにされたピンク色のアナルに、指を出し入れされるたび、ティルナータは「ぁっ、……ぁんっ……」と悩ましげなため息を漏らしては泣きそうな顔をして、「ゆうま……こっちに来て」と心細げに俺の名を呼ぶ。
ティルナータに身を寄せてキスをすると、自分から舌を入れてくる。少しずつ積極的に俺を求めてくれるようになったティルナータのことが愛おしくて、愛おしくてたまらなかった。だからこそ傷つけたくはないのに、ティルナータの全てを自分のものにしたいという欲望は高まるいっぽうだ。
このしなやかな身体をペニスで貫き、もっともっと気持ちよくしてやりたい。激しく激しく、欲の赴くままに犯してしまいたい。長い髪を乱して、俺の上で腰を振るティルナータが見てみたい。ナカでイくティルナータを見てみたい、何度もなんども空イキさせて、もう俺なしじゃ生きていけないってくらいに、快楽で貶めてやりたい……そんなことを考えながら、俺は努めて優しくティルナータの身体を味わったのだった。
そんなことをされまくったのだから、疲れていないわけがない。調子に乗ってティルナータの背骨を辿るように舌を這わせていると、彼はようやく重たげに瞼を開き、そして「なにしてんだ……」と、かすれた声を出す。
「おはよう、ティル」
「……ん……くすぐったぃ……」
尻たぶを揉みながら、俺はティルナータの首筋にちゅっとキスをした。するとティルナータはこっちに顔を向けて枕に頭を預け、うっとりと艶やかに微笑む。そして「朝からお盛んなやつだ」といった。
「お前見てると、興奮するんだ」
「……ふふっ……」
「フェラしたい。だめ?」
「……口で、するやつか?」
「そう。……だめ?」
俺が焦らすようにそんなことを言うと、ティルナータは頬をピンク色に染めて、困ったような顔で寝返りを打った。
「ユウマは、して欲しくないのか……?」
「えっ……。そ、そりゃあ……男の夢ではある、けど」
「……その夢、僕が叶えてやろうか?」
「えええっ……、で、でも……」
「どうする? ユウマ」
「あっ」
ティルナータは、下だけ履いている俺の股間を、そっと指先で撫で上げた。そしてゆったりとした瞬きを何度かした後、もぞもぞと布団の中に潜り込もうとしたその時……。
「おーい、悠真! いるんだろー!? なんでてめぇメールも電話も無視すんだよ!! 生きてんのかぁ!?」
ドンドンドン!! とドアを叩く音。そして、無骨な淡島の声が部屋に響き渡った。
俺はがばりと身体を起こし、素っ裸のティルナータに慌てて服をかぶせ、ティッシュだのゴムだのローションだのが散乱した部屋を超特急で片付け、窓を開けて換気をした。するとティルナータは「さむい……」と、縮こまって布団の中に潜り込んでしまった。
そういえば、車も借りっぱなしだった。しかも例の火事事件の時の礼も言ってないし、あの日以来ずっとティルナータとべったりだったから、スマホなんて一瞬たりとも見ていない。いろいろと協力してもらってんのに、俺ときたらすっかり淡島の存在を忘れていた……。
若干の気まずさを抱きつつドアを開けると、淡島がジト目で俺を見下ろしている。
明らかに寝起きの俺の姿を見て、淡島の表情がさらに険悪になった。……申し訳ない。
「おう、おはよ……」
「……ふーん、で。そういうことになったってか」
「? 何が?」
「首んとこ」
淡島は、襟元の伸びた俺のTシャツの首のあたりを、トントンと指差した。
はっとする。……そうだ。昨日の晩、ティルナータが「キスマークというものをやってみたい」と言ったから、練習を兼ねて俺の首筋をいっぱいぺろぺろ……。
俺は大慌てで、首筋を隠す。
「どーすんだよお前!! あの子、元の国に返したいんじゃなかったのか!? 九条のやつ、『異世界への扉を開くための魔法陣をゲットしたで!!』とかなんとか言って、裏山でスタンバってんだぞ!?」
「えええっ!? ま、マジで……!?」
「なのにお前!! どーなんってんだよ、どういう関係になっちゃったんだよ」
「そ、それは……」
それはそれとして……。
異世界への行き方が分かったって……ことか!? 本当に、異世界への扉を開くことができるっていうのか……!?
「……すぐ、行くよ」
「え? それでいーのか?」
「うん……。とにかく、行くから。ちょっと待ってて」
俺は淡島に車のキーを返して一旦ドアを閉め、ドアを背にして深呼吸をした。
そして、布団にくるまっているティルナータのもとへ歩み寄る。
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