「越冬電鉄」について
以前更新した「越冬電鉄」ですが、たびたび感想などをいただきましてとてもうれしく思っております。
この小説を書いていたころ、ものすごく悩んでおりまして、というのもセリフを書くのがすごくすごく苦手だったのです。
どのタイミングでセリフを挟めばテンポが悪くならないか、どういう言い回しをしたら自然な会話に見えるだろうか、い抜き言葉で書けば自然だけど作法としてどうなのかとか、すごく悩んでいました。
一度気になるととことん気になるたちで、まったくなにも思い浮かばなくなってしまったときに、
「どうせ風景描写のほうが好きだし、いっそセリフの一切ない小説を書いてみよう」
と思い立ちました。
結果、自分としてもとても気に入るものができたと思います。
いまこうしてみなさまに読んでいただき、感想をいただいて、本当に書いてよかったなあと実感しています。
この越冬電鉄、舞台の白砂海岸を高田松原のような場所、と設定して書いておりました。写真で見た高田松原の風景がとても美しく、はじめにその写真ありきで物語を作りました。
しかし、ちょうど書き始めてすぐ東日本大震災が起こり、くだんの高田松原も被害にあったと知りました。
このまま小説を書くのもなぜだか自信も覚悟もなくなり、数年たってからサイトにUPしたことを覚えています。世論で臆病になり、神経質になっていたのかもしれません。
旅行に疎く、一度も足を運んだことのない土地なのですが、そういった経緯もあり、勝手ながら妙な土地鑑のようなものさえ抱いてしまいます。おこがましいとは思いつつ、小説の舞台情景にすることで、見知らぬ土地でも愛着がわくのだなあと不思議に思ったものです。
唯一残った奇跡の一本松、一度はだめになりかけても手を加え復元されたそうです。その強さ、そして震災前の美しい松原はいまでも胸に残っています。
いまでもすべてが元通りというところは少ないのではないのでしょうか。風化させず、少しでも早く元通りの風景、日常が戻ればいいと遠くから祈っております。そしてその願いを越冬電鉄に込め、読んだ方の心にひとかけらでも残ればいいなと思います。