【えちぅど】水族館dez-vous

* * *

 青い影絵の一員になれていた。もう少し、走り回れて活気のある場所がいいのではないかと牧場や動物園も視野に入れていた。


 大水槽前のスペースは観覧席があり、カップルや子連れの親たちが足を休めていたが俺は中二階のようになった上のフロアから彼を見つめる。意外とおとなしいところがある。毎日が発見で、それは世の役に立つとか、いずれ自分のためになるとか、そういうものではないけれど。


 背後を行き交う足音は布地の床によってさらに趣深くなっている。時折、子供の甲高い絶叫も聞こえる。手摺に置いた腕を組み替え、服の擦れる音もした。静かだ。目の前には、サメとイワシの大群を眺める彼がいるのに。静かだ。時間を忘れる。同時に、本当に彼が影絵になったみたいで心配にもなる。子供みたいに水槽に両手をついて、青緑の光に縁取られたあの子に早く構われたいとも思ってしまう。俺のところにすぐさま戻ってきて、海鮮丼が食べたいとでも言うのだろう。俺は彼を観ているだけで時間を潰せるけれど、あの子の忙しない気質ならすぐに飽きる。

 

 すぐに飽きて、俺のところに帰ってくる。

 

 今にも、すぐに………

 

 彼は熱心に大水槽を観て、ふと、俺を振り返る。目が合えば、俺のところに戻ってきた。


「トラフザメ、お前に似てるから一緒に観よ」


 子供みたいな手に引かれ、俺も影絵の中に入っていく。水槽の光りに青白くなる彼はいつもの彼らしくなくて少し怖かった。日に焼けて健康そのものなのに、透けて消えてしまいそうで。一度放された手を握った。嫌がられて、逃げられる。かと思うとまたやって来て握り直す。

 


 朝から何かが不安だった。だから誘った。いつもは口数の多い彼が今日はおとなしい。水族館だから?


「2時半のイルカショー観ようぜ」


 しなやかにフィットする手が強張っている。俺の不安が伝わっている。気を遣わせたのだ。水族館には知らない彼がいて、この子を少し大人にしてしまう。

 

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800字弱。

水族館+rendez-vous+気鬱(ブルー)。

タイトルに引っ張られた感がある。

相手を「あの子」扱いしてしまう保護欲丸出し攻すこり。