【えちぅど】羽ばたけず滑空
受側が雇われ人モノ
△朝チュン系の危うさアリ
※朝チュン…朝に鳥が鳴いている様。性夜明けの比喩。
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見た目はタイプではない。かといって厭な感じでもない。まず男だった。しかしよく笑い、品の無さに窺える育ちの良さと、夜の街に棲まう軟派で軽率な輩と類してしまうには惜しい清らかな聡さがある。何でもかんでも楽しがり、美味がり、よく喋る、相入れそうにない反対の気質。同じ年の生まれと聞いたが随分と子供っぽい。その姿を好艶一色に染めてみたかった。不本意に。力尽くで。蹂躙するつもりでいた。
枕を並べた相手に銃口を向けられ、資産家の男は全身が粟立つような美しい顔に苦笑を浮かべた。少年から青年に変わる境界に留まったような不思議な雰囲気の男の腕は先端に鉄の塊を持っても揺らがない。ベッドで緩んでいた表情は引き締まり、可愛らしくしかつめらしい顔をしている。特別目を惹く美形というわけではない。左の八重歯がいくらか顔立ちの均衡を崩していたが愛嬌がある。一度肌を合わせてしまうと、警戒心が瓦解した。絆されたのを、銃口を向けられた男は自覚する。
腰に掛布を巻き付けただけの雇われ人は、まるで捨てられた愛玩動物が翌日人間になってしまったような、無表情でも妙に愛想のある雰囲気で、緊迫感がない。
両腕をゆっくり持ち上げた。小さく丸い虚空は、唇を尖らせて拗ねたような表情が彼の常日頃の真顔らしい瞳よりも真剣みを帯びている。いつ撃たれてもおかしくなかった。現実逃避を始めた頭の片隅では同じく全裸に掛布である姿で死骸となることを悔やんでいる。
「ばぁん」
手首を捏ねり、銃口が天井を向く。撃ち抜かれたのは彼らしくない真面目ぶった仮面で、粉々になったその下には少年に戻った軟派で軽率な笑みがある。冷えた美貌の持主は内奥から安堵感を引き摺り出され、それは本人の制御の外にあった。危機に瀕した肉体の反応に衝動性は伴わなかったくせ、今、この瞬間に発火した。
ベッドが軋む。この場に不釣り合いな黒い鉄塊を布の小波が模った。照明から隠れた特徴的な双眸は相変わらず無邪気で、左側の八重歯が口角を歪める。
イッショニ ニゲヨ。
理由は"キモチヨカッタから"。それだけらしい。鉄を握っていた手が熱い腕を掴む。
長い旅の支度の前に、ひとつ挨拶を交わす。
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800字余り。
文章気取り過ぎて恥ずかしくなってきた。
多分追手に始末されEND.
攻側が雇われ人のときは即刻殺したのにね。