【えちぅど】アイシテナイからくれない
凸役遊郭モノ
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赫紅(からくれない)の衣を繁々と見つめ、あの客は深い藍色の反物を置いていった。地袋から出しては端を摘んで眺め、また地袋にしまう日々。
彼はもう来ないのかも知れない。年若い師匠に連れられていた付き添いに過ぎなかった。新世代服飾の仕立屋で、美しく冷淡な感じのする師匠のほうはあの付き添いの、まるで肉親の幼弟みたいに扱っている弟子をここに預け、別の場所に移っていった。荊堂遊郭は、妓郎が客を抱く店だ。あの師匠は蕾堂遊郭に向かった。この界隈の右も左も分かっていなげな純朴な弟子を置いて。
待っている。多少のことでは動じないこの逢魁夫-おいらん-の沈着冷静な眼差しが地袋から畳の目を泳ぐ。あどけなさの残る、おそらく年下の芋臭い客に意識を持っていかれ、夢をも支配されている。
あの夜は特別で、ただ菓子を食らうだけだった。妖しい黄朽葉の芋羊羹を食べ、茶を飲み、浅く語らい、三味線を聴かせて、寝そべる。それだけで店を食わせられ、懐が焼け爛れるほど温まる。指1本、触れたかも疑わしい。
頬は熱を持ち、布団を上げた畳にはしたなく寝転がる。あの客は自分の家のように横になり、自分の家のようにこの逢魁夫に接した。この店がどういうところで、逢魁夫に会うということが何を意味するかも知らないで。
彼は図々しい野良猫がそのまま人に化けたものなのだ。端麗な師匠はそれを知らないで、ただこの逢魁夫を、この店を威圧し、暗黙の注文を飛ばして自分は夜の雀蜂と戯れにいくのだ。平然と荊を手折り、毒針の巣窟に入っていくのだ。
『お兄さん、この色似合うよ』
寝転がりながらあの客は深い藍の反物を粗末に叩いた。その価値を知っていながら、乱雑に。
遠回しに赫紅は似合わないと言っていることにも気付かない、否、こちらが卑屈にならねば気付かせない明朗さを持って。
円窓が赤くなり、やがて青くなる。あの客が今何をしていて、いつ来るのかを知っている円形の奥を妬み、嫉む。
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800字少々。
「韓紅/唐紅の語源は赫紅(あからくれない)」説を選択。(架空の世界観なので韓/唐ってどこやねん状態になるから)
スパダリ超絶美青年クール師匠(ファッションデザイナー兼モデル)に牽制されるスパダリ超絶クール同い年美男子花魁→弟子陽気ワンコ同い年客。
※出てくる用語は8割造語です。