【えちぅど】横から見つめる。

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 根が優しくて素直な子の横顔は時折見ていられないほどに痛々しくなる。


 恋人ができたという同級生の2人並ぶ後姿をあの子の真っ直ぐな瞳が凝らしている。彼があの子に思わせぶりな態度をとっているのを俺も見たことがある。それで本命はまったく別の、元気で賑やかな女だったのだ。


 見ていられない。横からあの子の腕を引く。もう行こう。直視する必要なんてない。この子のほうが苦しくて、行き場のない、やり場のない想いに苛まれているはずなのに。


「あいつのカノジョ、すごくいい子なんだ。明るくて、元気で、イケイケでさ…」


 かわいい後輩。それ以上の感情を俺はこの子に寄せている。この子があの同級生の彼にそうするように。この子の片想いを知っていながら。


「あの子、かわいくて、いい子なのに……悔しいな、オレ」 


 俺のほうを向いてにこりと笑う。しなくていい、そんなカオ。一筋落ちたものにも気付かないふりをする。


「オレ、あの子のこと嫌いじゃないし、いい子だと思うのに、オレ……あの子に…ヤキモチ、焼いてる……オレ、ヤなやつだ……」


 素直なこの子は自分に対しても残酷な素直さを持っている。惚れた弱みで見ないふりをしたけれども、顔を立てるのは楽ではなくて、俺は失恋直後の後輩に言い寄る最低な男になってでも、この子を悲しみの中に置いておきたくない。


「俺と付き合おう」


 つけこんでいる自覚はある。どさくさに紛れて、不恰好だ。


「先輩、この前女の子にコクられてたじゃん」


 もちろんフった。他に好きな人がいる。それが誰なのか、この子はこれからきっと分かる。この子の終わりでも、それが俺の始まりだった。


「ずっと好きだった。あのカップルみたいに、真剣に俺と付き合ってほしい」


 その人と付き合わないでほしいだなんて、悪人でなくても考える。俺はきっとまたこの子の悩みを増やす悪人だけれども。

 

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700字余。

珍しく健気ワンコ受け片想い。年上スパダリ保護者系クールデレ美男子×年下小生意気健気ワンコ→スパダリ同級生クールデレ美男子×モブ女想定。

 

フられてください。